講演情報

[KP_03]段階的装具調整を行うことにより心理的抵抗の改善が得られた、下腿脚長差のあるTHAの一症例

*高橋 菜月1、福井 宣善1、宮﨑 博子1 (1. 京都桂病院 リハビリテーションセンター)

キーワード:

下腿脚長差、人工股関節全置換術、心理的抵抗

【症例紹介】
70歳代女性。左股関節痛増悪により左人工股関節全置換術(THA)を施行。幼少期の右下腿骨折・神経損傷により、右足関節背屈機能不全と著明な脚長差(LLD)を有したが、既存装具(10mm補高)で屋外独歩自立。THA後はLLD変化に伴う装具の再調整が必要であったが、過去の皮膚損傷経験や現在の装具への依存から、装具変更に強い心理的抵抗を認めた。
【評価とリーズニング】
術前(pre)→退院時(ENT)→術後3ヶ月(3M)で評価。股関節屈曲:110/100→105/90→110/100・外転:30/25→40/25→40/20、膝関節伸展:-10/-5、足関節背屈:-55/20・底屈:55/50。股関節外転筋力は2.83/1.66→3M:2.70/1.73(N/kg)、歩行速度は0.50→0.59→0.60m/s、歩行形態は独歩→2本杖→1本杖。構造的LLDは12→術後:0mmと改善、既存装具着用で機能的LLDは左:50→45→45mmと大きく残存。疼痛(VAS)は82→0→0mm、満足度(VAS)は18→50→100mmで、装具に対する受容度(VAS)はENT:0→3M:100mmと改善し、疼痛破局化尺度(PCS)も26(反芻:11/無力感:9/拡大視:6)→0→5点(2/0/3)と改善。一方で3Mに非術側の右膝関節痛が出現。術前からの足関節拘縮による衝撃吸収機能の低下を非術側の右膝スラストで代償していたが、LLD変化に伴う過負荷がその代償限界を超えたと考えられた。この時点で、本人に装具調整の理解が得られ、調整を開始した。
【介入内容と結果】
装具業者と連携し、心理的抵抗に配慮した段階的な補高および外側ウェッジ調整を計13回実施。術後アプローチを行いつつ、歩行時疼痛、装着感、歩容、機能的LLDを確認し、歩行分析や身体機能の評価結果を目で見える形で共有して装具調整に理解を促した。6M時点では、股関節可動域は屈曲:120/110、外転:40/40に拡大、股関節外転筋力は2.81/1.69 N/kgに維持。歩行速度は、新装具で0.72 m/sに改善し、30mmの補高修正後は機能的LLDが左15mmとなり独歩可能となった。膝関節痛(VAS)は0mmで、満足度および装具受容度は維持され、PCSは3点(1/1/1)まで改善、装具順応が進んだ6.2Mには歩行速度が0.76 m/sまで向上した。
【考察】
本症例では、術側が主支持脚として十分に機能する3Mまで、非術側の代償的支持が必要であった。しかし、著明な機能的LLDにより歩行の非対称性が生じ非術側膝関節に力学的負荷を増大させ、非術側の右膝関節痛を惹起した主因と考える。一方、装具変更への心理的抵抗は、術後PCSが良好なことから、疼痛に対する破局的思考より術前の装具に対する強い依存が主因と推察された。これらの心理的抵抗に対し、目で見える形で段階的装具調整を実施したことが奏功し、装具受容と歩行能力の改善が得られたと考える。長期間著明なLLDを有し装具変更に強い心理的抵抗を伴う本症例においては、力学的修正のみでは不足で、患者の認知・感情的側面に配慮した段階的アプローチが奏功したと考える。
【倫理的配慮、説明と同意】
本発表に際し、ヘルシンキ宣言に則り、対象者に対して説明と同意を行い、承諾を得た。