講演情報
[KP_14]「電車に乗りたい」を支援した訪問リハビリテーションの一例
*牛尾 龍1 (1. 洛和会音羽リハビリテーション病院)
キーワード:
訪問リハビリテーション、電車利用、片麻痺
【症例紹介】
本症例は右視床出血発症後5年が経過した左片麻痺を呈する独居の70歳代男性である。屋内外とも短下肢装具および可動式3点杖で自立していた。本人の希望は「一人で電車に乗って外出したい」であったため、電車利用獲得を目標に訪問リハビリテーション(以下:リハビリ)を実施した。
【評価とリーズニング】
Brunnstrom stage上肢・手指・下肢はⅢ、表在・深部感覚は中等度鈍麻を認めた。短縮版Berg Balance Scale(BBS)19/28点、Mini-Mental State Examination30/30点、Short Physical Performance Battery(SPPB)9/12点、歩行速度0.65m/sであった。人混みや狭路など予期せぬ環境では歩行速度低下やふらつきを認め、立ち止まって周囲を確認する必要があった。公共交通機関利用を目標にリハビリを開始した。大津らは電車利用に立位バランスや歩行耐久性が必要と報告している。Schmidらは限定的な地域歩行には0.4~0.8m/s、完全な地域歩行には0.8m/s以上の歩行速度が必要としている。村上らは動作性知的指数の保持と目的に対する意欲が公共交通機関利用を可能にすると報告している。これらを踏まえ、車内での姿勢制御、注意分配、環境適応能力が重要と考えた。
【介入内容と結果】
屋外歩行練習、段差昇降練習、自主練習指導に加え、立位での外乱刺激や不安定面での練習を反復した。また、人混みでは筋緊張増加に伴いふらつきや立ち止まりが増え、ステップ反応が低下することを本人と共有した。その結果、人混みでのふらつきは軽減し、「心に余裕が出来た」との発言が得られた。BBS22/28点、SPPB11/12点、歩行速度0.68m/sまで改善したが、完全な地域歩行の基準には至らなかった。電車評価では駅構内移動や乗降は概ね可能であった一方、発車・停車時には著明なふらつきにより立位保持が困難であった。以上より、電車利用自立は困難と判断し、見守り下での利用に留めた。
【考察】
機能改善は認めたが、先行研究で示される水準には到達せず、電車利用自立には至らなかった。宮田らは目標課題に類似した特異的トレーニングの有効性を報告している。本症例では、時間的・環境的制約から実際の電車環境で十分な反復練習が行えず、模擬練習でも揺れや人混みを十分に再現できなかったことが影響した可能性がある。一方、本人からは「実際にやってよかった」との発言があり、生活場面で評価を行い具体的なリスクを共有できた点は意義があった。また、本人の希望に沿って挑戦したことは意思決定支援の観点からも有用であった。今後は症例を蓄積し実環境を反映した介入方法や模擬練習の質について更なる検討が必要である。
【倫理的配慮、説明と同意】
本人に説明し同意を得た。個人情報保護に配慮した。
本症例は右視床出血発症後5年が経過した左片麻痺を呈する独居の70歳代男性である。屋内外とも短下肢装具および可動式3点杖で自立していた。本人の希望は「一人で電車に乗って外出したい」であったため、電車利用獲得を目標に訪問リハビリテーション(以下:リハビリ)を実施した。
【評価とリーズニング】
Brunnstrom stage上肢・手指・下肢はⅢ、表在・深部感覚は中等度鈍麻を認めた。短縮版Berg Balance Scale(BBS)19/28点、Mini-Mental State Examination30/30点、Short Physical Performance Battery(SPPB)9/12点、歩行速度0.65m/sであった。人混みや狭路など予期せぬ環境では歩行速度低下やふらつきを認め、立ち止まって周囲を確認する必要があった。公共交通機関利用を目標にリハビリを開始した。大津らは電車利用に立位バランスや歩行耐久性が必要と報告している。Schmidらは限定的な地域歩行には0.4~0.8m/s、完全な地域歩行には0.8m/s以上の歩行速度が必要としている。村上らは動作性知的指数の保持と目的に対する意欲が公共交通機関利用を可能にすると報告している。これらを踏まえ、車内での姿勢制御、注意分配、環境適応能力が重要と考えた。
【介入内容と結果】
屋外歩行練習、段差昇降練習、自主練習指導に加え、立位での外乱刺激や不安定面での練習を反復した。また、人混みでは筋緊張増加に伴いふらつきや立ち止まりが増え、ステップ反応が低下することを本人と共有した。その結果、人混みでのふらつきは軽減し、「心に余裕が出来た」との発言が得られた。BBS22/28点、SPPB11/12点、歩行速度0.68m/sまで改善したが、完全な地域歩行の基準には至らなかった。電車評価では駅構内移動や乗降は概ね可能であった一方、発車・停車時には著明なふらつきにより立位保持が困難であった。以上より、電車利用自立は困難と判断し、見守り下での利用に留めた。
【考察】
機能改善は認めたが、先行研究で示される水準には到達せず、電車利用自立には至らなかった。宮田らは目標課題に類似した特異的トレーニングの有効性を報告している。本症例では、時間的・環境的制約から実際の電車環境で十分な反復練習が行えず、模擬練習でも揺れや人混みを十分に再現できなかったことが影響した可能性がある。一方、本人からは「実際にやってよかった」との発言があり、生活場面で評価を行い具体的なリスクを共有できた点は意義があった。また、本人の希望に沿って挑戦したことは意思決定支援の観点からも有用であった。今後は症例を蓄積し実環境を反映した介入方法や模擬練習の質について更なる検討が必要である。
【倫理的配慮、説明と同意】
本人に説明し同意を得た。個人情報保護に配慮した。
