講演情報

[KP_18]透析治療中であるパーキンソン病患者の歩行改善を図った一症例
―膝関節伸展筋力低下とすくみ足に着目して―

*田中 惇之介1 (1. 音羽記念病院)

キーワード:

透析、パーキンソン病、内側広筋

【症例紹介】本症例は,既往にパーキンソン病(以下:PD)を有する80歳代男性である.慢性腎不全に対し維持透析中に自宅で転倒し右大腿骨頸部骨折を受傷.人工骨頭置換術を施行し透析継続目的で当院へ転院となった.透析治療に加えPDを有し,さらに骨折術後であることから身体機能低下を来しやすい背景があった.Hoehn-Yahr分類はStageⅣ,生活機能障害度Ⅱ度である.
【評価とリーズニング】立位姿勢では体幹前傾,骨盤後傾,両股関節・膝関節屈曲位を呈し,歩行ではInitial Contact(以下:IC)で膝関節の屈曲過多,Mid Stance(以下:MSt)で膝折れと股関節の屈曲過多を認め,歩行開始時及びInitial Swing(以下:ISw)ですくみ足を認めた.膝関節伸展MMTは両側とも3,視診触診では両膝蓋骨の外側偏位と内側広筋の筋萎縮,立位保持では両膝関節の屈曲位傾向を認めた.山田らは,内側広筋は膝関節伸展最終域で最も活動し,膝蓋骨の外側偏移を抑制すると報告している.以上より,荷重下における膝関節伸展最終域での筋出力低下がICで膝関節の屈曲過多を招き,その後のアライメント不良と下肢支持性低下を引き起こしていると考えた.さらに,PDに伴う筋強剛とすくみ足がISwで下肢の振り出しを阻害していると推察した.
【介入内容と結果】本症例は透析治療中のPD患者であり,単独病変よりも筋力低下を呈しやすい状態であると仮説を立て,筋力増強訓練を中心に治療展開を進めた.介入は,特に内側広筋や大殿筋の筋力増強訓練,段差昇降や片脚立位保持,棒またぎや声掛けによる外的手がかりを用いた歩行練習とした.介入後,IC~MStでの膝関節伸展角度が改善し,MStで膝折れ消失と股関節屈曲角度の改善がみられた.歩行開始時およびISwではすくみ足の軽減がみられた .
【考察】本症例の歩行障害は,膝関節伸展筋力低下による立脚期の支持性低下とPDのすくみ足が重なり生じていた.ICでの膝関節伸展角度の改善は,MStでの膝折れ防止だけでなく,二次的に股関節屈曲角度の改善と下肢支持性向上に寄与していた.これは,畠中らのICでの過度な膝関節屈曲が過度な股関節屈曲を誘引し,前方への重心移動を困難にするという報告とも一致する.また,外的手がかりを用いた歩行練習は外発的随意運動を促通しすくみ足の軽減に寄与した(石川ら,2013)が,環境依存性が高く,内発的運動への汎化には課題が残った. 富田らは,透析関連因子が筋蛋白分解の亢進や骨格筋量低下を助長すると報告し,石川らは,PDでは運動抑制系が優位となり身体活動量低下や筋力低下を来しやすいと報告している.本症例ではこれらに骨折術後の不動に伴う筋力低下が重なり,身体機能低下が増悪したと考えられた.先行研究では,透析治療中のPD患者における身体機能低下を十分に検討した報告は乏しかった.本症例から透析治療とPDの併存により生じる身体機能低下について検討する必要性が示唆された.
【倫理的配慮、説明と同意】本発表に関する説明を本人に行い,同意を得た.