講演情報
[KPL]慢性痛者に対するEmpowering小さな「できること」の積み重ねを理学療法士がどう支えるか
安彦 鉄平 (京都橘大学 健康科学部 理学療法学科)

略歴(主な学歴・職歴)
2005年 専門学校社会医学技術学院 夜間部理学療法学科 卒業
2005年 東京都リハビリテーション病院 理学療法科 入職
2013年 京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 着任
2015年 首都大学東京大学院 博士課程修了(理学療法学)
2025年 Bond University, Department of Health Sciences and Medicine Visiting Assistant Professor (2026年3月まで)
2005年 専門学校社会医学技術学院 夜間部理学療法学科 卒業
2005年 東京都リハビリテーション病院 理学療法科 入職
2013年 京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 着任
2015年 首都大学東京大学院 博士課程修了(理学療法学)
2025年 Bond University, Department of Health Sciences and Medicine Visiting Assistant Professor (2026年3月まで)
私は、就職して間もなく椎間板ヘルニアを発症した。下肢の激しい痛みで座ることも立つことも30秒と保てず、職場復帰までに6週間を要し、新人でありながら働けない自分を責め続けた。翌年、翌々年と再発を重ね、理学療法士として働き続けられないのではと絶望した。以後、痛みそのものよりも再発への不安が行動を縛り、発症から15年、腰痛に支配される日々が続いた。
再発を繰り返していた当時の理学療法は、体幹深層筋への関心が高く、私もワイヤ筋電図を用いた研究で学位をまとめた。しかしメカニカルストレスのみに着目する対応には、限界を感じていた。その頃、運動恐怖や破局的思考といった心理的要因が痛みを増幅させることを知り、自分が経験してきた痛みそのものを説明する概念だと感じた。この気づきをきっかけに、Pain Neuroscience Education(PNE)の研究に取り組み、PNEと身体活動を併用した介入の有効性を報告した(Abiko et al., 2025)。
私の腰痛改善の転機は2つあった。ひとつは息子を毎日抱き続けた経験である。日に日に重くなる息子を抱くことへの恐怖より、「抱っこしたい」という思いが上回り、いつしか日常生活における動作への恐怖は薄れていった。それでも再発への不安は、その後10年にわたり頭から離れなかった。ふたつ目の転機は、その不安を解いた運動の再開である。先輩方の助言を参考に、ジョギングを少しずつ進め、2年後には東京マラソンを完走するまでに至った。ゴールテープを切った瞬間は、15年間の慢性腰痛との歩みのゴールでもあった。ただし重要だったのはマラソンの完走そのものではなく、練習の中で負荷を段階的に高める過程、すなわち段階的暴露を通して、痛みに対する自己効力感を取り戻したことであった。
研究を進めるなかで、中枢性感作や破局的思考の軽減には、教育や段階的暴露に加え、運動、睡眠、栄養などのライフスタイルへの働きかけが重要であることも明らかになってきた。Nijsら(2020)は、身体活動、睡眠、食事、ストレス、喫煙といった生活習慣要因が痛みの重症度や遷延に関連することを整理し、これらを個別化された多面的介入として同時に扱う必要性を指摘している。我々も現在、慢性腰痛を有する介護職を対象に検討を進めており、複数の健康的なライフスタイルの実践が、痛みに左右されにくい状態を取り戻すための一つの手がかりとなる可能性を見出しつつある。
本講演では、慢性疼痛を抱える人を、医療の対象としてではなく生活の主体者として捉えるため「慢性痛者」と呼ぶ。15年間慢性腰痛と向き合った一人として、また研究者として、自身の経験と研究成果、さらに先行研究を重ね合わせながら、慢性痛の理解と支援のあり方を論じたい。Pain Neuroscience Education、段階的暴露、ライフスタイル介入の視点から、慢性痛者が小さな「できること」を積み重ね、主体性を取り戻していく過程を理学療法士がどのように支えられるのか、その実践的な手がかりを共有したい。
再発を繰り返していた当時の理学療法は、体幹深層筋への関心が高く、私もワイヤ筋電図を用いた研究で学位をまとめた。しかしメカニカルストレスのみに着目する対応には、限界を感じていた。その頃、運動恐怖や破局的思考といった心理的要因が痛みを増幅させることを知り、自分が経験してきた痛みそのものを説明する概念だと感じた。この気づきをきっかけに、Pain Neuroscience Education(PNE)の研究に取り組み、PNEと身体活動を併用した介入の有効性を報告した(Abiko et al., 2025)。
私の腰痛改善の転機は2つあった。ひとつは息子を毎日抱き続けた経験である。日に日に重くなる息子を抱くことへの恐怖より、「抱っこしたい」という思いが上回り、いつしか日常生活における動作への恐怖は薄れていった。それでも再発への不安は、その後10年にわたり頭から離れなかった。ふたつ目の転機は、その不安を解いた運動の再開である。先輩方の助言を参考に、ジョギングを少しずつ進め、2年後には東京マラソンを完走するまでに至った。ゴールテープを切った瞬間は、15年間の慢性腰痛との歩みのゴールでもあった。ただし重要だったのはマラソンの完走そのものではなく、練習の中で負荷を段階的に高める過程、すなわち段階的暴露を通して、痛みに対する自己効力感を取り戻したことであった。
研究を進めるなかで、中枢性感作や破局的思考の軽減には、教育や段階的暴露に加え、運動、睡眠、栄養などのライフスタイルへの働きかけが重要であることも明らかになってきた。Nijsら(2020)は、身体活動、睡眠、食事、ストレス、喫煙といった生活習慣要因が痛みの重症度や遷延に関連することを整理し、これらを個別化された多面的介入として同時に扱う必要性を指摘している。我々も現在、慢性腰痛を有する介護職を対象に検討を進めており、複数の健康的なライフスタイルの実践が、痛みに左右されにくい状態を取り戻すための一つの手がかりとなる可能性を見出しつつある。
本講演では、慢性疼痛を抱える人を、医療の対象としてではなく生活の主体者として捉えるため「慢性痛者」と呼ぶ。15年間慢性腰痛と向き合った一人として、また研究者として、自身の経験と研究成果、さらに先行研究を重ね合わせながら、慢性痛の理解と支援のあり方を論じたい。Pain Neuroscience Education、段階的暴露、ライフスタイル介入の視点から、慢性痛者が小さな「できること」を積み重ね、主体性を取り戻していく過程を理学療法士がどのように支えられるのか、その実践的な手がかりを共有したい。
