学会長挨拶
見えないものを観る ~行為と認知のVisualization~
リハビリテーションの現場では、標準化されたエビデンスに基づいた介入が着実に整備されてきました。しかし実際の臨床に目を向けると、視野障害や半側空間無視、身体や病態失認、失語、失行といった高次脳機能障害や、慢性疼痛、複雑な併存症など、容易に定式化できない病態が数多く存在します。行動の仕方や回復の道筋が大きく異なる背景には、神経心理学的な障害だけでなく、本人の身体の捉え方、発症前後の経験、行動ストラテジーの選択、さらにはメタ認知と病識のあり方など、目に見えにくい多様な要素が深く関わっているからです。
そのためリハビリテーション専門職は、外形的なパフォーマンスだけでなく、その背後にある認知的・神経心理学的なプロセスに注目する必要があります。対象者の行為の難しさは、単なる「できない」という事実ではなく、「どう見えているのか」「どのように行為を構成しているのか」という情報を含んでいるからです。私はこれまで、視線計測や脳画像解析といった手法を通じて、半側空間無視や視野障害における代償戦略やメタ認知のプロセスを探ってきました。また現在は、企業においても、表出が少ない対象であってもストレスや興味関心、行動特性を可視化し、より対象者の可能性を引き出すプロダクトの開発に取り組んでいます。どこにいても共通して関心を寄せてきたテーマが「見えないものをどのように観るか」なのです。
そこで本学術集会では、「見えないものを観る〜行為と認知のVisualization〜」をテーマに掲げました。数値化や先端技術による定量化だけでなく、対象者のナラティブや主観的経験に寄り添い、それらをどのように構造化し研究や実践に活かしていくかという視点を大切にしたいと考えています。本学術集会では、心理学・神経科学・哲学・社会科学など多様な領域の知見を交差させ、複雑な人間の行為や認知の理解を深める議論を行います。
本集会が、科学的探究と臨床実践を往還させながら、リハビリテーションの未来をさらに切り拓く契機となることを願っています。多くの仲間と共に、「見えないものを観る」視点を磨き上げていくことを楽しみにしております。
第25回認知神経リハビリテーション学会学術集会
学会長 大松聡子(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター/ 株式会社デジリハ)
