講演情報
[II-JS-3]FALD肝癌の発症予防は可能か?
○考藤 達哉 (国立健康危機管理研究機構 肝炎・免疫研究センター)
キーワード:
FALD、肝癌、うっ血肝
三尖弁閉鎖症や単心室症に対して施行されるFontan手術は、下大静脈血を肺動脈に繋ぎかえる手術であるが、その結果肺動脈に直接的に圧がかかり、また低酸素血症に伴う肺動脈収縮と肺高血圧も相俟って、うっ血肝を呈することが知られている。肝癌発症FALD症例では、非発症例と比較して予後が極めて不良であることが報告されており、発癌を未然に防ぐという観点で、肝硬変や肝癌リスクを反映する指標やバイオマーカーの探索が望まれている。FALDの肝組織所見では類洞の拡張、肝細胞萎縮、中心静脈周囲の線維化が認められるが、炎症細胞浸潤は極めて軽度である。他の慢性肝疾患における炎症・線維化から発癌するプロセスとは異なる機序で発癌に至る可能性が示唆される。FALD肝癌患者における肝硬変合併率は50ー70%であり、非肝硬変でも発癌する症例が存在することに留意する必要がある。FALD肝癌の発症を防止するためには、第一にFALDの発症と増悪を防ぎ、Fontan術後の循環動態を安定化することが重要である。現時点では、FALDの肝線維化や発癌を防止する有効な薬剤は存在しない。他の要因による肝機能悪化を避けるためには、合併する肝疾患の有無を精査し、治療可能な疾患は積極的に治療する必要がある。食生活を含む生活習慣を是正し、肥満や多量飲酒を避けることは、Fontan循環の維持と同時に発癌予防にも繋がる。また、生命予後に影響するサルコペニアの予防も重要である。本シンポジウムでは、臨床的な肝癌関連因子と、うっ血肝モデルマウスを用いた基礎研究、FALD肝癌切除検体を用いたゲノム解析の成果を基に、FALD発症防止、肝癌防止対策の可能性について議論したい。