講演情報
[III-OR29-02]小児における劇症型心筋炎と急性胃腸炎との初診時ルーチン検査所見の比較
○前田 靖人1,2,3, 津田 恵太郎2, 家村 素史2, 須田 憲治3, 前野 泰樹1 (1.聖マリア病院 小児科, 2.聖マリア病院 小児循環器内科, 3.久留米大学 医学部 小児科学講座)
キーワード:
劇症型心筋炎、急性胃腸炎、逸脱酵素
【背景】心筋炎に特異的な症状はなく、多くは消化器症状が先行した後に数日の経過で心症状が出現する。そのため、初診時に急性胃腸炎と誤診されることが多く、最初のルーチン検査所見から心筋炎を疑えるかが重要である。【方法】2008年から2024年に当科を受診した「劇症型心筋炎9症例」と、年齢をマッチさせた「急性胃腸炎45症例」とで、外来初診時のルーチン検査所見を比較した。【結果】劇症型心筋炎群の年齢の中央値は7歳(範囲0-15歳)、体重の中央値は21 kg(範囲7-47kg)で、全例VA-ECMOを導入し、1例は死亡、8例は救命できていた。全例先行症状があり、8例(89%)に腹痛・嘔吐・下痢などの消化器症状を認めた。外来初診時のルーチン血液検査項目の比較で、白血球数やCRPといった炎症マーカーに有意差はなかった。逸脱酵素ではALTに有意差を認めなかったが、AST[心筋炎 217(41-1760)U/L vs. 胃腸炎 39(18-173)U/L]、LDH[心筋炎 647(262-3376)U/L vs. 胃腸炎 256(122-639)U/L]、CK[心筋炎 1215(97-3583)U/L vs. 胃腸炎 83(37-341)U/L]とその他3項目はいずれも心筋炎が有意に高かった。ROC分析において、CK 168 U/Lをカットオフとした際のAUCが0.96と最も高く、感度0.89、特異度0.88であった。【結論】AST, LDH, CKなどの逸脱酵素は、劇症型心筋炎で初診時から有意に上昇しており、ルーチン検査として評価すべき項目である。特にCKは、溶血やウイルス性肝障害の影響を受けやすいASTやLDHよりも有用な可能性がある。消化器症状を主訴に受診した患者で異常な上昇を診た際には、劇症型心筋炎を疑って追加評価を行う必要がある。