講演情報
[III-PPD3-4]画像診断とファイラーコード
○佐々木 奈央 (Division of Cardiac Imaging, Department of Cardiology, Boston Children's Hospital)
キーワード:
Fyler Code System、artificial intelligence、congenital heart disease
1968年、ボストン小児病院のファイラー教授により、ニューイングランド乳児心臓病プログラム(NERIP)が設立され、先天性心疾患に関する包括的なデータベース構築が開始されました。当時、疾患を分類する体系が存在しなかったため、教授は独自にファイラーコーディングシステム(FCS)を開発しました。FCSは外来診療、心電図、カテーテル検査、手術所見、さらには手技に至るまで、あらゆる診療情報を分類・記録する仕組みであり、ボストン小児病院は早期に電子化を導入しました。1950年以前のデータも手作業で入力され、後に心エコー、MRI、CTなどの画像診断にもFCSは適用されました。現在FCSのコード数は330万を超え、所見や診断の迅速な検索が可能となり、臨床研究や診療支援に大きく寄与しています。このシステムの特筆すべき点は、単なる外部データベースではなく、患者のカルテそのものであることです。医師は診療中に所見を再入力する必要がなく、記録がそのまま臨床に活かされます。50年以上前に構築されたこのシステムの先見性には敬意を表するものであり、日本においても同様の取り組みが広がることが期待されます。近年ではAIの急速な進歩により、全国の先天性心疾患データをAIで分類・統合し、専門医が必要な情報に迅速にアクセスできるシステムの実現が視野に入ってきました。これにはデータサイエンティストとの協力、さらに若手医師や医学生のAI技術習得が不可欠です。日本では出生数が減少しているとはいえ、2021年時点で先進国の中ではアメリカに次いで第2位を維持しています。先天性心疾患は出生数に比例して発症するため、日本には多くの症例が存在し、データベースの構築と臨床応用を通じて、予後の改善に貢献する責任があります。今後も新技術を積極的に取り入れる姿勢が求められます。