セッション詳細

【シンポジウム8】産衛・公衛2学会合同企画 災害対応における地域と職域のフェーズフリーな協働推進

2025年10月29日(水) 16:05 〜 17:35
第3会場 (会議ホール:11階)
座長:岩本 萌(東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻)
   立石 清一郎(産業医科大学 災害産業保健センター)
本シンポジウムは、日本公衆衛生学会と日本産業衛生学会が共同企画として実施するものであり、テーマは「災害対応における地域と職域のフェーズフリーな協働推進」である。両学会はこれまで、それぞれ「すべての人々に健康を」「すべての労働者に産業保健を」という理念のもとに活動を展開してきた。公衆衛生は地域住民全体の健康と生活環境を守る視点から、産業衛生は職域における労働者の安全と健康を守る視点から、異なるフィールドで実績を積み上げてきた。しかし、近年の自然災害の激甚化・頻発化や感染症パンデミックなど多様で複合的な危機は、これらのフィールドの境界を容易に越え、地域と職域が相互に影響を及ぼし合う現実を突きつけている。
 災害時、地域を支える自治体職員、医療従事者、インフラ復旧に従事するエッセンシャルワーカーらは、自らも被災者でありながら長時間かつ過酷な環境下で活動を続けなければならない。能登半島地震でのJ-SPEED健康チェックは、こうした現場の実態を可視化し、自治体職員の風邪症状や消化器症状の有症状率が支援者の数十倍に達していたことを示した。また、鉄道事業者をはじめとする指定公共機関では、被災地の早期復旧のために多数の従業員が厳しい状況で任務にあたっている。大阪市では、平時から地域保健師が多機関連携を進め、災害や感染症発生時に即応できる体制づくりを進めている。さらに、行政職員自身の健康管理体制の欠如は、災害対応の持続性を脅かす重大な課題であることが指摘されている。
 これらの事例は、平時からの顔の見える関係や情報共有の仕組みを基盤に、地域と職域、公衆衛生と産業衛生が有機的に連携しなければ、災害対応の質と持続性が確保できないことを如実に物語っている。被災者支援と同時に、支援者自身の健康と生活を守ることは、単なる福祉的配慮ではなく、復旧・復興のスピードと質を左右する戦略的課題である。
 本シンポジウムでは、第一線で活動された演者の経験から、現場で直面した課題と成功要因を共有し、平時から有事まで切れ目なく機能する「フェーズフリー型」協働モデルの構築に向けた具体的方策を議論する。異なる専門性を持つ組織がそれぞれの強みを生かしつつ、相互に補完し合う関係をいかに築くか。その答えを模索する本場が、今後の日本の危機対応力を高める重要な一歩となることを期待している。

[シンポジウム8-1]災害時における行政職員の役割と健康管理体制の課題

*武智 浩之 (群馬県健康福祉部感染症・疾病対策課)

[シンポジウム8-2]多機関との協働で備える自治体保健師の健康危機管理活動の実際

*齊藤 和美 (大阪市平野区保健福祉センター)

[シンポジウム8-3]災害時エッセンシャルワーカー支援と事業継続計画

*澤島 智子1,2 (1. JR東海 健康管理センター 東京健康管理室,2. 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)

[シンポジウム8-4]能登半島地震における自治体職員の健康管理支援活動:J-SPEED健康チェックの取り組み

*村山 華子1、立石 清一郎3、久保 達彦1,2 (1. 広島大学 大学院医系科学研究科公衆衛生学,2. 京都大学 ヘルスセキュリティセンター 健康危機管理多分野連携学分野,3. 産業医科大学 産業生態科学研究所 災害産業保健センター)