第41回個体群生態学会大会

企画シンポジウム

企画シンポジウム1

風にのり、動物と共に広がる種子散布研究 ― 新たなパターンとプロセスが描き出す陸上生態系の進化史 ―

企画者:井上輝紀、山尾僚(京都大学)

【趣旨】

陸上生態系の基盤を支える植物の個体群や群集構造、それらの動態を理解するうえで、「移動・分散」は最も本質的かつ重要なプロセスである。Howe and Smallwood(1982)の総説以降、多様な種子散布のメカニズムが報告されており、それらが生態系において果たす役割の重要性に対する認識も一層高まってきている。近年では、種子散布様式の違いが種内・種間相互作用などに影響し、緯度クラインなどのグローバルな群集パターンの形成に寄与していることが明らかになりつつある。本シンポジウムでは、これら最新の知見を集約し、「植物の移動・分散」という視点から陸上生態系を俯瞰することで、新たな研究の方向性を探る。

【講演者】

Evan Fricke (Massachusetts Institute of Technology)

"Global changes in seed dispersal by animals: how species introductions and defaunation are reshaping seed dispersal networks and ecosystem functioning"

Bo-Moom Kim (Kyoto University)

"Seed dispersal's impact on evolution of plant cooperative behavior"

Teruki Inoue (Kyoto University)

"The effect of fecal microorganisms on seed germination and growth"

Akira Yamawo (Kyoto University)

"Mutualistic interactions as drivers of forest ecosystem evolution"

Teturo Yoshikawa (Osaka Metropolitan University)

"Integrating multiple approaches to seed dispersal research"

 

企画シンポジウム2

個体の移動・行動から紐解く生態系のダイナミクス

企画者:阿部真人(同志社大学)

【趣旨】

生物個体の移動・行動は、採餌、繁殖、天敵回避、社会的相互作用といった個体の適応度に直結する基本的な現象である。これらは個体の生存や繁殖成功に直接影響を与えるだけでなく、個体群レベルの出生・死亡を通じて、個体数の増減、すなわち個体群動態に多大な影響を及ぼすと考えられる。さらに、移動や行動が変化することで、競争、被食・捕食、相利共生といった種間相互作用の強度やパターンが変化し、それが群集構造や生態系機能にまで波及する可能性がある。従来、移動や行動に関する研究は、個体または集団レベルに焦点を当て、行動の適応的意義といった進化的背景の解明を中心に進められてきた。しかし、それらの研究は断片的な観測や限られた条件下での定性的記述にとどまることが多く、移動・行動が生態系全体に及ぼす影響を包括的に理解するには至っていなかったといえる。近年、GPSやテレメトリーによるバイロギングやAIによる画像解析などトラッキング技術革新によって、生物の移動・行動を高精度かつ長期間、広範囲にわたって定量的に計測することが可能となりつつある。同時に、空間構造を考慮した個体群動態モデルや、確率論的な移動モデル、ネットワーク解析、エージェントベースモデリングなど、理論的アプローチも発展している。これにより、個体の行動と個体群・群集・生態系レベルの現象をつなぐための実証的・理論的な接続点が見え始めている。本シンポジウムでは、生物個体の移動・行動の定量的な研究を通じて、生態系レベルまで理解を深めようとしている研究者にご講演いただく。個体の移動・行動が個体群動態や種間相互作用に与える影響などについて議論を深め、行動研究と生態系研究をつなぐ新たな視点を共有する機会としたい。

【講演者】

阿部真人(同志社大学)

「生物の移動と個体群動態」

勝原光希(岡山大学)

「メタ群集での多種共存における”歪んだ”移動分散の効果」

柴﨑祥太(同志社大学)

「塩分ストレスが淡水性プランクトンの捕食者ー被食者動態に与える影響」

藤岡慧明(同志社大学)

「音響GPSバイオロギングに基づいたコウモリの採餌行動生態の理解」

西海望(新潟大学)

「捕食者と被食者の戦略が生み出す生物集団の動きのダイナミクス」

 

企画シンポジウム3

生態学を起点としたネイチャーポジティブ・NbSの社会実装研究の展開

企画者:西田貴明(京都産業大学)

【趣旨】

現在進行中のネイチャーポジティブ、NbS・グリーンインフラに関する社会実装研究プロジェクトに関わる研究者から、研究プロジェクトの内容と社会実装に向けた課題認識を共有し、今後の同領域の一層の推進に向けた研究の方向性や、期待される社会制度のあり方を議論する。今後、さらに社会実装研究に期待される中で、次世代の研究者に向けて、社会実装において求められる多様な分野や主体の連携のあり方を模索したい。

【講演者】

西田貴明(京都産業大学)

「ネイチャーポジティブ・NbSの社会動向と本イベントの狙い」

近藤倫生(東北大学大学院)

「ネイチャーポジティブをめぐる二つの視点:トップダウンとボトムアップ」

吉田丈人(東京大学大学院)

「自然の恵みを社会に活かす生態学とその広がり」

西廣淳(国立環境研究所)

「グリーンインフラを活かす社会とそれを支える科学・体制・資金」

源利文(神戸大学)

「自然共生サイトにおける環境DNA分析と希少種の保全にむけた小さなアクション」