講演情報

[14-O-D002-07]在宅復帰を目指した介護教室開催の意義

*松岡 智美1、山本 美智子1、福貴島 夕香1、柳田 国弘1、松井 美千子1 (1. 大阪府 吹田徳洲苑)
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2023年認知症病棟利用者のうち、在宅復帰を希望する利用者家族32名のうち、在宅復帰は14名に過ぎない。14名のうち7名はADLがあがり、移乗や排泄動作が自立し在宅復帰できたが、7名に対しては、介護者が介護技術を取得するために介護教室を開催し、介護手技と認知症利用者への寄り添い方を教育し、有効であったので報告する。
【はじめに】 
認知症フロアにおける在宅復帰はBPSDの程度や、在宅の介護力の低下により困難を伴うことが多い。しかしながら、在宅復帰に際しては症例の選択と、希望する家族に在宅での介護方法や、寄り添い方について介護教室を開催することが有効であることが明らかになったので報告する。
【現状と問題点】
当苑の認知症フロアは55床からなり、2023年4月から2024年3月までの1年間の当フロアの新入所者数は66名、退所者数は75名であった。そのうち入所時の在宅復帰希望者は、32名(48%)であったが、在宅復帰ができた利用者は14名(21%)にとどまった。ADLが上がり身の回りのことがでるようになり在宅復帰した利用者は7名、残りの7名は、ADLは一部介助から全介助であり、家族の介護力がなく、介護技術の習得することが必要であった。そのために介護教室を実施することで在宅復帰が可能になるか否かについて調査した。
【分析内容】 
入所時に聞き取りした方向性で在宅復帰を希望した32名の介護度、長谷川式簡易認知評価スケール、BPSDの程度、家屋調査の実施の有無、カンファレンスの開催の有無、必要に応じた介護教室の実際、また介護教室を利用するまでの期間についてリスト化し問題点を明確にした。
【結果】
1)在宅復帰できた利用者14名と、在宅復帰できなかった利用者18名の比較:平均介護度は、在宅復帰した14名は、3.3、在宅復帰できなかった18名は3.1であり差はなかった。また、長谷川式簡易知能評価スケールでは、在宅復帰した利用者は14.5点であり、 在宅復帰できなかった利用者は、8.2点であった。在宅復帰できなかった利用者のうち、質問の意図がわからず精査できない利用者が4名みられた。家屋調査に関しては、在宅復帰した利用者へは8名(64%)実施できたが、在宅復帰できない利用者へは全員未実施であった。
2)介護教室を実施した利用者7名と介護教室を受けなかった利用者7名の事例の比較:BPSDの程度について徘徊・多動は、介護教室を実施した利用者は5名(71%)(7名中2人は全介助)介護教室を受けなかった利用者は、1名(14%)、暴言・被害妄想は、介護教室を実施した利用者は、3名(42%)、介護教室を受けなかった利用者は、3名(42%)で差はなかった。介護教室を受けた主介護者は配偶者が3名、子供4名であった。介護教室の内容は、排泄介助(おむつ交換・トイレ誘導)7名(100%)次に、移乗動作6名(85%)、更衣、整容4名(57%)胃瘻からの注入1名(14%)であった。入所期間も1か月~17か月と幅はあるも、平均6.5か月である。
<事例報告>
U氏、90歳代女性、要介護3、HDS-Rは4点。入所時のBPSDは、暴言や暴力があり、昼夜問わず叫んでいた。介護抵抗があるのでオムツ交換は2人対応、30分に1回「トイレ」と叫んでいたが尿バルーンは留置してあった。頻回な尿意の訴えがあったので、尿バルーンを抜去し、トイレ誘導すると排尿はみられたが、立位は不安定であり2人介助を要した。主介護者の長男は、在宅復帰への強い思いがあったが介護経験はなかった。家屋調査の結果、室内は狭く車椅子は使用できない。入所時の現状では、安易に在宅復帰は難しく感じられたので、ケアマネジャー、リハビリ、看護、介護がカンファレンスを実施し、排泄が自立することを目標とした。リハビリでは立位訓練や、移乗訓練を行い、認知面に関しては、音楽鑑賞や、傾聴を行った。また、家族が面会に来ると落ち着くこともあり面会を週1回以上は来てもらい家族にも協力を得た。リハビリの強化もあり、3か月程度でL字柵を使用し自分でベッド移動もできるようになり、ベッドサイドにポータブルトイレを置き、自立した排泄に向けて取り組んだ。入所中も、尿意を訴えるとベッドサイドに戻り、ポータブルトイレに誘導し、ポータブルトイレで排泄するように習慣化した。ADLが上がるとともに排泄動作も確立され、HDS-Rも4点から11点にあがった。暴言、暴力はなくなることはなかったが多動、介護抵抗は減った。主介護者である長男に、排泄介助の介護教室を行い、その後は面会のたびに排泄介助を実施してもらった。長男も在宅復帰できると思うようになったことから4か月で在宅復帰できた。
【考察】
認知症は、脳の病気や障害によって認知機能が低下する。そのことで、新しいことが覚えられない、環境が変化することで不安が強くなり不穏になる。今回の事例に関しても記憶力の低下により、施設での生活が認識できず、不穏になり暴言、暴力がみられた。特に、排泄に関しては頻回な訴えもあり、在宅復帰しても家族負担は大きく感じられたことから、排泄が自立することが重要であった。家屋調査の結果、室内は狭く車椅子は使えない状況で、介護力のない長男が認知症の母を長期にわたり介護するには負担が大きかった。多職種がカンファレンスを行い、ベッドサイドにポータブルを置き、在宅に帰ってもトイレの認識ができるように入支援したことが効果的であったと思われる。また、今までは2人介助で行っていた排泄介助も、排泄動作が確立されることになり、欲求が解消されることで多動も減った。しかし、暴言は、減らなかったが長男との関係性は問題なく築けていた。
【まとめ】
・認知症を有する利用者であっても、ADLが自立すると在宅復帰はしやすい。・BPSDである「多動・徘徊」がない利用者のほうが在宅復帰しやすかった。・欲求が解消されることで、BPSDが緩和され、HDS-Rの点数も上がった。・家屋調査へ行き、自宅での様子を考察し介護教室をすることで家族もイメージがつきやすく在宅復帰のポイントになる。・家屋調査に本人を同行することさせることは重要で、「帰りたい」と言う気持ちが在宅復帰につながる。