講演情報

[14-O-D005-01]自分らしく生きる投薬見直しと課題分析による支援

*馬場 美樹1、長縄 伸幸2 (1. 岐阜県 老人保健施設 サンバレーかかみ野、2. 特定医療法人 フェニックス)
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私どもは1991年より在宅医療を開始。その後認知症の治療ならび療養支援を順次行ってきました。現在クリニックにおける認知症外来での加療に加え通所サービス・老人保健施設・グループホームで療養支援も行っています。本大会では老人保健施設における症状に応じた減薬等の適切な医療連携を含めBPSD症状とトリガーを把握、ケアによる生活改善につながった取り組みを報告します。
【はじめに】
 当法人は、2つの有床診療所と密に3つの老人保健施設の特徴を最大限に生かしつつ29の法人関連事業所と共に地域に貢献をめざしています。そのうち認知症に特化した事業所としては、認知症対応型デイサービス、グループホーム72床そして私どもの単独型施設サンバレーかかみ野です。
サンバレーかかみ野は、在宅復帰支援ユニット、医療必要度の高い療養性および重度認知症対応ユニットがあるのが特徴です。
いずれも療養に加え、医師との医療連携が密にできることにより認知症の症状から適切な医療連携とケアが可能になります。しかし認知症の中にはBPSD症状に悩まされ介護負担になっている事も少なくありません。
 そこでBPSD症状を引き起こす要因を投薬も含め多画的に捉えた、医療連携とケアによる取り組みを報告します。
【BPSD症状とトリガーの把握】
(1)在宅や医療機関での情報共有
 在宅において、「最近ちょっと生活に見守りが必要になった気がする」「認知症かも知れない」と認知症外来に足を運ばれる方々に、認知症の診断や更に深く困り事を確認するため本人及び家族に対して専門の質問調査票を使用して詳細な状態を把握しています。法人の関連部門で認知症を疑った時にも法人内での共通情報としています。
 法人内の情報ツールはR4システムを利用しており、ICFに基づき本人を取り巻く環境や個人的な情報等が分かるようになっています。
(2)ICFに基づく情報収集とアセスメント
 老人保健施設に移行後は24時間の生活の継続を確認できることがあり生活に着目した改善に必要なBPSD症状のトリガーを探ります。法人内での情報と照らし合わせて、現状の主な中核症状とBPSD症状を把握した後、何が引き金になっているのかを明確にし、課題から具体的なケア実践を行います。
【BPSD症状に対するケアのあり方】
(1)できる動作の維持・活用と環境調整
 BPSD症状は施設入所で慣れない環境の不適合や体調不良、規制と制約による不快感から出現することも少なくありません。
 中でも、感情の不安定と放尿や失禁の繰り返しがある利用者様については入所時の排泄の能力とセルフケア行動に相違がある場合は改善の可能性があります。多職種連携の排泄支援においては入所時BI評価(能力評価)と共に医師と内服調整も含め評価します。評価を基に連携し、徐々に自立に向けて排泄介助やベッド周辺の環境整備等を行い、日常生活行動の改善と自分の意志に従い行動ができることで精神的安定の効果がみられました。
(2)体調管理と医療連携
 体調不良が要因のBPSD症状もあります。
病識の低下や伝えたいことが伝えられない等により体調が悪いことを表現できないため、常に日常の状態を確認し変化の気づきに対し医療と介護が一体化している老人保健施設の強みを生かして医療連携を図りながら症状の軽減ができます。
(3)なじみの生活の継続ができるケア
 世代と共に高齢者像は変化しています。個別に応じたケアを実践するには人生歴や生活歴を知ることが重要です。当法人では入所時のバックグラウンドアセスメント用紙を利用しケアに活用しています。
 認知症の進行を遅らすことを目的とした内服と組み合わせて脳トレーニングや趣味嗜好にあった活動提供を行い、趣味・生きがいの実現や役割取得の維持ができるようになり、施設入所で分断されず、継続したなじみの生活、自分らしい生き方の一環となっています。
(4)薬の調整と見直し
・医療から生活期に移行した後の減薬
 急性期医療で多くの内服が必要ですが病態の軽減と共に投薬内容見直しが行われます。医師は一人の利用者に対して医療機関や在宅で早期に内服調整をしていますが、生活期に移行した施設においても病状の程度を確認の上、減薬等により生活改善が見込める場合は病態が悪化しなければ徐々に内服調整が必要です。
・BPSD症状が目立つ人に対する薬のコントロール
 薬においては不適切ケアな組み合わせ、多剤併用などにより時に認知症状を悪化する場合があります。入所直後は特に不安や理解力低下からのBPSD症状が出現しやすいため、環境調整やケアの実践を行います。適切なケアの実践を行っても症状が落ち着かない方(徘徊や興奮・感情の不安定、大声・暴力等)に対しては、医師と症状を共有するためのフローチャートを用いて、薬の服用と症状の変化の有無、状態を確認しています。精神的安定が図れた後、傾眠やADL低下等気になる兆候がある場合、再度医師と連携して内服の見直しを行うことで日常生活行動の改善がみられました。
・日常の変化から薬を見直す
 非定型抗精神病薬のみならず、認知症の治療に必要な内服調整をしています。
中核症状は脳病変に関係があり日常的な状態や行動を結び付けて医師と連携する必要性もあります。日常的なケアの関わりに加えて内服開始後の少しの変化と病態、BPSD症状を情報として医師と共有することで適切な治療を行うことが可能となります。
【考察】
 トリガーによるケア方法に加えて、認知症の症状を医師とフローチャート等を使用し共有することで、内服治療による認知症症状の改善や精神的安定が可能となっています。
 できる動作の維持、活動と参加をするためにケアおよび内服によってBPSD症状を緩和することが重要です。
 人生歴も踏まえたケアの提供は、団塊の世代を見据えたケアの一つとして自分らしい生活を継続するためにも今後必要不可欠になると考えます。また、老人保健施設とグループホームが連携することにより適切な在宅療養生活ができる環境を提供しています。
【まとめ】
 24時間の生活の継続を確認し、認知症の症状に対する計画実践ができる老人保健施設は認知症症状の改善が期待できます。在宅等との暮らしをつなげるパイプ役となり認知症ケア支援を充実させることが必要だと思っています。