講演情報

[14-O-D005-02]笑顔を引き出す楽しい学習認知症の予防と周辺症状の軽減を目的した個別の学習

*笠原 賢1 (1. 千葉県 沖縄徳洲会千葉徳洲苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】現時点の推計では、65歳以上の認知症患者数は、2025年には、約675万人と5.4人に1人程度が、認知症になると予測されている。当施設でも認知症利用者は年々増加しており、特に認知症の周辺症状への対応の難しさに頭を悩ませている。今回、前頭前野の活性化に効果がある「学習」にプラスαで脳の動きを活発にする「笑顔」の効果を取り入れた事例の発表を行う。
【内容】実施期間:R5月~現在実施時間:週3回 30分程度実施内容:読み書き、計算、歌、ことわざ、イラスト、クイズなど簡単な学習に、懐かしい思い出話等のコミュニケーションを交え、笑顔を引き出す【事例1】M様 女性 84歳 要介護5こだわりが強く、自己中心的であり、他者とのコミュニケーションは、ほとんど見られない。また入所当初より、活気がなく、腰や、膝の痛みを訴え臥床していることが多く、夜間頻回に目が覚め昼夜逆転傾向にあった。危険の認識が低下しており、職員を呼ばずに、起き上がろうとして転落したこともあり、不穏な事が多く帰宅願望や苛立ちが目立った。食事は自力で摂取できるも、ほとんど残していた。入浴時は何をしていいかわからず、洗身、洗髪は、ほぼ介助を要した。【事例1 結果】MMSE 18→20学習は前向きに取り組まれており、計算では、日に日に回答時間が短くなった。問題を解き終え、大きな丸と100点を記すと、笑顔が見られるようになった。数字盤に挑戦したときは30個を並べるのに時間がかかったが、翌日自分から「50個に挑戦する」とおっしゃり、前日の30個より要領よく並べることができ、完成した時はこちら側にも達成感が伝わってくるほどの満面な笑みを浮かべ、とても印象的だった。読み書きでは、石川啄木や中原中也など難しい読み物も挑戦し、ゆっくりと確実に読むことが出来た。自分の名前も大きくしっかり書けるようになり、自信をもつことができた。「何か文章を書いてください」の設問に「皆さんで楽しく生きる」と記されたときは感動した。今までにない、他者への配慮を感じた。他者の話も聞き入れることができるようになり、会話が成立するようになった。腰や膝の痛みの訴えは減少し、日中に臥床する事がほとんどなくなった。その為、夜間は朝まで良眠されるようになり、排泄介助時もトイレコールを押してくれるようになった。食事も3食とも完食されるようになり、更に「1日1回パンが食べたい」と意欲的になり、1日1回のパン食が実現した。入浴は楽しみにされるようになり、更衣・洗身が声掛けまたは一部介助レベルになった。【事例2】K様 女性 80歳 要介護4内気な性格で、他者に興味を示すことはほとんどない。職員の話しかけに、全く違う意味の短い返答があるのみで、笑顔が少ない。ご家族との面会でも、特に変化は見られない。食事・排泄・入浴は、ほぼ全介助。体動も少なく活気は見られない。日中夜間を通して寝ていることが多い。【事例2 結果】MMSE 3→7果物野菜のイラストを見て、答える学習が気に入り、ブロッコリーやパイナップルなどの難しいカタカナもすらすら答えることが出来るようになった。数字は1~10までを思い出しながら数えることが出来るようになった。壁に飾っているカレンダーの数字を突然読み上げた時は驚いた。日中の覚醒時間が増え、こちらからの話しかけに、必ず応えてくれるようになった。会話が成立することも増え、また他者に感心をしめすようになり、ご自分から言葉を発するようになり、よく笑うようになった。【まとめ】ただ単に学習するのではなく、笑顔を引き出す楽しい学習を意識することにより、前頭前野をより活性化させ、M様、K様の意欲や活気につながり、ADLだけでなくQOLの向上にも結びついたと考える。認知症の予防や周辺症状が軽減されれば、他者とのコミュニケーションが円滑になり、楽しい毎日を送ることが可能になる。今後、一人でも多くの利用者に「笑顔を引き出す楽しい学習」を提供し、笑顔の連鎖を繋げていきたい。