講演情報
[14-O-D005-04]生活の中での認知機能低下予防に対する取り組み
*多田 智美1 (1. 愛知県 介護老人保健施設 さくら大樹)
認知症高齢者は増加傾向であり、今回入所者に対し生活時間の一部で継続して行なえる認知機能低下予防に対する取り組みを報告する。個々の能力に合わせた認知課題の実施とレクレーションにリハビリ職員が参加した。その結果、認知機能評価にも向上がみられ、一斉に実施することで共通目標ができ、人との関わりも増えてきた。脳の賦活、活動量も増え、認知機能低下予防に繋がっていくと考える。
【はじめに】
認知症は高齢化の進展に伴い、令和7年には約700万人(65歳以上の高齢者の約5人に1人)に達する見込みとなっている。令和6年度介護報酬改定において、施設サービスでは、認知症チームケア推進加算の新設や認知症短期集中リハビリテーション実施加算の見直しがされた。当施設では重症度を問わず入所者数の7割は認知症を有している。そのような現状の中、施設での生活をその人らしく、楽しく過ごしていただきたいと思う。そのためには、認知機能低下を予防していくことが一つであると考える。認知機能低下予防には、いくつか方法があるが、適度な運動や脳を働かせることが重要である。他にも人や社会とのつながり、達成感を感じることである。認知機能低下予防に対するアプローチはリハビリテーションの時間のみでは限界がある。今回施設の生活時間の一部でも継続して行なえる取り組みを実施したので報告する。
【背景】
当施設入所者の1日の生活リズムは、食事・おやつ、入浴(週2日)、レクレーション、リハビリ、自主練習(一部入所者)である。それ以外の時間は自由時間だが、活動的に動く入所者は少なく、中には食堂で座ってテレビを観ながら時間を持て余している入所者もいる。それにより、脳を働かせることや人との関わりが少ないように思われる。刺激の少ない生活は認知機能低下の要因の一つである。リハビリテーションプログラムに認知課題を取り入れることも多い。しかし、短期集中リハビリテーション実施加算、認知症短期集中リハビリテーション実施加算を算定していない入所者は、週3回、1回20分で認知機能訓練を行なうには時間が限られてしまうことが現状である。
【取り組みとその経過】
刺激が少なくなりやすい施設生活の中で、少しでも認知機能低下を予防していくために、1日の生活リズムの中の時間を活用し、施設生活の一部として毎日行なえることを前提とした。令和6年1月から2つの取り組みを開始した。1つ目は、午前中の昼食前の空いている時間に「計算」、「漢字」、「四字熟語」、「塗り絵」の課題を行なってもらった。2つ目は、午後からフロア職員のみで行なっていたレクレーションをより充実させるため、リハビリ職員も一緒に参加した。午前中の課題は、それぞれ難易度を変え何種類か用意をした。それらを入所者個々の能力に合わせて、リハビリ担当が選択し個人ファイルに挟んでおき、日曜日以外の毎日、1日30分課題を行なってもらう。また、課題を行なってもらうだけでなく、達成感を感じてもらい、さらに自信を持ってもらえるように、その日の課題が終わったら正答、不正答に問わず丸をつけた。そして、意欲の向上にも繋がっていくことにも期待した。消極的や拒否的な発言が聞かれる入所者もいたが、無理に行なってもらわないように決め、課題を机に準備はしておき、入所者のペースで行なってもらった。積極的に取り組んでいる入所者は徐々に、自分から予定時間よりも早い時間から開始していた。また、皆が同じ時間に同じ空間で課題を行なうことで、消極的であった入所者も最終的には課題に取り組んでくれたり、入所者が同じ机の入所者に教えたり、相談し合う場面がみられた。レクレーションでは、運動の内容を専門職の領域を活かし検討した。参加する職員が少しでも多いことで盛り上げたり、入所者がレクレーションに積極的に参加できるような環境を作った。新しい内容として「コグニサイズ」を取り入れ、運動のバリエーションを増やしていった。運動をどのように行なうか分からない職員もいたが、体操や運動の内容を紙面で分かりやすいように作り、それを見ればどの職員も同じ内容で行なえることができた。また、普段活動的ではなくても大人数で行なうことで積極的に参加したり、声を出して楽しんでくれるようになってきた入所者もいた。取り組みの効果の検証には、午前の課題が行なえる入所者(認知症短期集中リハビリテーション実施加算算定者は除く)52名を対象に、改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)と周辺症状評価のDBD13で取り組み前後を比較した。
【結果・考察】
対象者52名に対し、午前の課題を拒否により中止した入所者2名は対象から除いた。HDS-Rでは、低下・維持が36名、向上が17名、内2点以上の向上が9名みられた。DBDでは、低下・維持が35名、改善が18名であった。HDS-Rが2点以上の向上が認められた入所者は、課題取り組み前の6か月間のHDS-Rの点数の推移より課題による効果が改善の要因の一つと考えられる。DBDとHDS-Rの点数の関連性はみられなかった。一人で行なうことより同じ時間、同じ空間で皆で一緒に行なうことで共通目標ができ、取り組みやすい環境が作れた。脳の賦活や人との関わりが増え、活動量も増えていく。そして、認知機能低下予防に繋がっていくと考える。
【まとめ】
今回課題やレクレーションの参加で認知機能低下予防を日常生活の一部で習慣化することができた。そして脳の賦活、人との関わり、達成感へ繋がっていくことを感じた。しかし、今回の取り組みで改善が見られなかった入所者においては更なる検討が必要である。今後もマンネリ化せず意欲向上に向けた内容を取り入れ継続していくことが課題である。そして、認知機能低下を予防していき、その人らしく楽しい生活を過ごしてもらえるような関わりを作っていくことを大切にしていきたい。
認知症は高齢化の進展に伴い、令和7年には約700万人(65歳以上の高齢者の約5人に1人)に達する見込みとなっている。令和6年度介護報酬改定において、施設サービスでは、認知症チームケア推進加算の新設や認知症短期集中リハビリテーション実施加算の見直しがされた。当施設では重症度を問わず入所者数の7割は認知症を有している。そのような現状の中、施設での生活をその人らしく、楽しく過ごしていただきたいと思う。そのためには、認知機能低下を予防していくことが一つであると考える。認知機能低下予防には、いくつか方法があるが、適度な運動や脳を働かせることが重要である。他にも人や社会とのつながり、達成感を感じることである。認知機能低下予防に対するアプローチはリハビリテーションの時間のみでは限界がある。今回施設の生活時間の一部でも継続して行なえる取り組みを実施したので報告する。
【背景】
当施設入所者の1日の生活リズムは、食事・おやつ、入浴(週2日)、レクレーション、リハビリ、自主練習(一部入所者)である。それ以外の時間は自由時間だが、活動的に動く入所者は少なく、中には食堂で座ってテレビを観ながら時間を持て余している入所者もいる。それにより、脳を働かせることや人との関わりが少ないように思われる。刺激の少ない生活は認知機能低下の要因の一つである。リハビリテーションプログラムに認知課題を取り入れることも多い。しかし、短期集中リハビリテーション実施加算、認知症短期集中リハビリテーション実施加算を算定していない入所者は、週3回、1回20分で認知機能訓練を行なうには時間が限られてしまうことが現状である。
【取り組みとその経過】
刺激が少なくなりやすい施設生活の中で、少しでも認知機能低下を予防していくために、1日の生活リズムの中の時間を活用し、施設生活の一部として毎日行なえることを前提とした。令和6年1月から2つの取り組みを開始した。1つ目は、午前中の昼食前の空いている時間に「計算」、「漢字」、「四字熟語」、「塗り絵」の課題を行なってもらった。2つ目は、午後からフロア職員のみで行なっていたレクレーションをより充実させるため、リハビリ職員も一緒に参加した。午前中の課題は、それぞれ難易度を変え何種類か用意をした。それらを入所者個々の能力に合わせて、リハビリ担当が選択し個人ファイルに挟んでおき、日曜日以外の毎日、1日30分課題を行なってもらう。また、課題を行なってもらうだけでなく、達成感を感じてもらい、さらに自信を持ってもらえるように、その日の課題が終わったら正答、不正答に問わず丸をつけた。そして、意欲の向上にも繋がっていくことにも期待した。消極的や拒否的な発言が聞かれる入所者もいたが、無理に行なってもらわないように決め、課題を机に準備はしておき、入所者のペースで行なってもらった。積極的に取り組んでいる入所者は徐々に、自分から予定時間よりも早い時間から開始していた。また、皆が同じ時間に同じ空間で課題を行なうことで、消極的であった入所者も最終的には課題に取り組んでくれたり、入所者が同じ机の入所者に教えたり、相談し合う場面がみられた。レクレーションでは、運動の内容を専門職の領域を活かし検討した。参加する職員が少しでも多いことで盛り上げたり、入所者がレクレーションに積極的に参加できるような環境を作った。新しい内容として「コグニサイズ」を取り入れ、運動のバリエーションを増やしていった。運動をどのように行なうか分からない職員もいたが、体操や運動の内容を紙面で分かりやすいように作り、それを見ればどの職員も同じ内容で行なえることができた。また、普段活動的ではなくても大人数で行なうことで積極的に参加したり、声を出して楽しんでくれるようになってきた入所者もいた。取り組みの効果の検証には、午前の課題が行なえる入所者(認知症短期集中リハビリテーション実施加算算定者は除く)52名を対象に、改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)と周辺症状評価のDBD13で取り組み前後を比較した。
【結果・考察】
対象者52名に対し、午前の課題を拒否により中止した入所者2名は対象から除いた。HDS-Rでは、低下・維持が36名、向上が17名、内2点以上の向上が9名みられた。DBDでは、低下・維持が35名、改善が18名であった。HDS-Rが2点以上の向上が認められた入所者は、課題取り組み前の6か月間のHDS-Rの点数の推移より課題による効果が改善の要因の一つと考えられる。DBDとHDS-Rの点数の関連性はみられなかった。一人で行なうことより同じ時間、同じ空間で皆で一緒に行なうことで共通目標ができ、取り組みやすい環境が作れた。脳の賦活や人との関わりが増え、活動量も増えていく。そして、認知機能低下予防に繋がっていくと考える。
【まとめ】
今回課題やレクレーションの参加で認知機能低下予防を日常生活の一部で習慣化することができた。そして脳の賦活、人との関わり、達成感へ繋がっていくことを感じた。しかし、今回の取り組みで改善が見られなかった入所者においては更なる検討が必要である。今後もマンネリ化せず意欲向上に向けた内容を取り入れ継続していくことが課題である。そして、認知機能低下を予防していき、その人らしく楽しい生活を過ごしてもらえるような関わりを作っていくことを大切にしていきたい。