講演情報
[14-O-D005-07]生活リズムを整えて在宅へ~昼夜逆転に着目して~
*梅原 佑介1、柴山 侑樹1、磯貝 さおり1 (1. 神奈川県 横浜いずみ介護老人保健施設)
昼夜逆転を呈した入所者に対して、多職種での取り組みを行った結果、生活リズムを整えることが出来、在宅復帰に繋がった為、報告する。眠剤に頼らない昼夜逆転の改善を目標として、リハビリ、介護、看護それぞれの視点からの対応を行い、反応を共有していった。その結果、眠剤の使用頻度を徐々に減少させ、昼夜逆転傾向が改善した。多職種それぞれの視点から、利用者に合わせた対応を行うことが必要であることが実感できた。
【はじめに】
病院から退院後、当施設へ入所日当日から昼夜逆転の状態であった利用者を担当した。本人や家族からは在宅生活を希望する声が聞かれていたが、日中は傾眠傾向で夜間は覚醒状態が続くなど、生活リズムが崩れており安定した施設生活を送ることが難しい状態であった。そこで昼夜逆転の改善を目標に多職種と協働した結果、在宅復帰に繋がった経験を報告する。
【症例紹介】
年齢:90歳代 性別:女性 診断名:尿路感染症、左大腿骨頸部骨折 身長:139kg 体重:40.6Kg BMI:21kg/m2 認知機能:HDS-R5点 ADL:車いすを使用し、日常生活動作全般に介助 BI:30点 介護度:要介護4 認知症高齢者の日常生活自立度:IIIb 病前ADL:自宅内は歩行で移動し、身の回りことは自身で可能であったが、徐々に認知機能が低下し介助を要すようになった。本人の受け入れが悪く、介護保険サービスは利用せず。
本人HOPE:家に帰りたい。 家族HOPE:家に帰ってきてほしい。トイレで排泄をしてほしい。 NEED:トイレまでの歩行能力獲得。
家屋情報:賃貸マンション。寝室からトイレまで10m弱。廊下は車いす走行可能だが、トイレドア前での方向転換困難。
【現病歴】
X年Y月Z日に自宅トイレ前で転倒し、左大腿骨頸部骨折の診断で前院入院。Z日+5日に人工骨頭置換術を施行。Z日+25日に回復期病院へ転院するが、食思不振や発熱を認め、Y月+2カ月で尿路感染症の診断を受け、前院へ再入院。Y月+4カ月に当施設へ入所となる。
【入所日からの本症例の様子】
入所日当日から帰宅願望が強く、指示理解も難しい状態であった。排泄の訴えが多く聞かれていた為、トイレ誘導を行うものの、排尿はほとんどみられず。日中は車いすにて離床しているが、覚醒状態は悪く、傾眠傾向が強い。また、耐久性が低く、注意も持続しないため、積極的なリハビリ介入は困難であった。夜勤帯の時間は日中に比べて覚醒しており、声出しが多く、睡眠時間は1時間程度。日中と同様に排泄の訴えが聞かれるが、排尿はほとんどみられない。声出しや車いすからの立ち上がりが頻回の為、常に近位見守りが必要であり、介護職員は他利用者のナースコール対応やオムツ交換の際は本症例に同行してもらいながら対応を行っていた。
【入所2週間後の対応】
入所から2週間、様子観察をした結果、他利用者の睡眠時間に影響が出ていた為、頓服で使用していたニトロゼパムを中止し、定時薬としてリスペリドンへ変更した。
【対応後の反応】
眠剤変更後1週間、様子観察をした結果、日差はあるが夜間の睡眠時間は2時間から8時間程度となった。しかし、日中の傾眠傾向が強まったことや腰、臀部の疼痛、暴言・暴力行為などの反応がみられるようになり、入所時以上にリハビリ介入が難しくなった.
【多職種での取り組み】
定時薬に変更したことで夜間の睡眠時間の延長を認めたものの、日中の傾眠傾向は強まった。そこでリハビリ、介護、看護の3職種で話し合い、睡剤に頼らない方法での昼夜逆転傾向改善を目標とし、それぞれの視点から対応していった。
リハビリ:本人の覚醒状態に合わせながら動作練習を中心に実施した。覚醒の悪い際は日光の当たる環境での介入や、夕方の時間帯に足浴を実施した。
介護:日中の外気浴や夕食後に足浴を実施した。帰宅願望や疼痛などの訴えに合わせて、声掛けの内容を変更した。
看護:日中の様子や夜間の睡眠状態を観察し、眠剤の調整を行った。3職種で症例の日々の状態を共有し、反応が良い対応を採用し適宜調整した。
【多職種での取り組み後の反応】
日光浴は閉眼していることが多く、覚醒向上には繋がらなかった。足浴中は落ち着いて会話が可能となった。足浴の有無で睡眠時間に変化はなかった。ベッド臥床した際に腰痛を訴えることが増え、排泄の訴えに繋がることが多かった。腰痛に対して声掛けをすると落ち着いて入眠することができた。
【経過】
取り組み開始1週間後:帰宅願望と日中の傾眠が減少傾向。夜間の睡眠時間は基本8時間。2時間睡眠の日もあるがその割合が減少し、眠剤は定時薬から頓服薬へ変更となった。
取り組み開始1カ月後:排泄の訴えが減少。足浴および眠剤の中止。日中の傾眠傾向はほとんどみられず。夜間の睡眠時間はおおよそ10時間半となった。
【結果】
昼夜逆転傾向の改善を認め、帰宅願望など不穏な様子もみられなくなった。リハビリ介入も可能となったことで伝い歩きやトイレ動作が見守りで可能となり、BI:40点 高齢者日常生活自立度:IIIaに改善した。入所から11カ月後に自宅退所となった。
【考察】
昼夜逆転傾向の改善には、概日リズムの改善を目的に眠剤の使用、日光浴、深部体温の上昇などが効果的であると言われている。しかし、眠剤の使用による効果は一過性であり、周辺症状による影響も述べられている。
本症例において、眠剤を頓服薬から定時薬に変更したことで夜間の睡眠時間の延長を認めたものの、日中の傾眠傾向の改善には至らなかった。今回の取り組みを行い、それぞれの職種からみた本症例の反応を適宜共有していったことで、反応の良い対応を選択することができ、本症例の昼夜逆転傾向の改善に繋がった。
限られた環境の中では、先行研究で推奨される介入が難しいことが多々見受けられる。利用者ひとりひとりに合わせた対応を多職種で考え、創意工夫していくことが、昼夜逆転の改善に必要だと強く実感する症例であった。
病院から退院後、当施設へ入所日当日から昼夜逆転の状態であった利用者を担当した。本人や家族からは在宅生活を希望する声が聞かれていたが、日中は傾眠傾向で夜間は覚醒状態が続くなど、生活リズムが崩れており安定した施設生活を送ることが難しい状態であった。そこで昼夜逆転の改善を目標に多職種と協働した結果、在宅復帰に繋がった経験を報告する。
【症例紹介】
年齢:90歳代 性別:女性 診断名:尿路感染症、左大腿骨頸部骨折 身長:139kg 体重:40.6Kg BMI:21kg/m2 認知機能:HDS-R5点 ADL:車いすを使用し、日常生活動作全般に介助 BI:30点 介護度:要介護4 認知症高齢者の日常生活自立度:IIIb 病前ADL:自宅内は歩行で移動し、身の回りことは自身で可能であったが、徐々に認知機能が低下し介助を要すようになった。本人の受け入れが悪く、介護保険サービスは利用せず。
本人HOPE:家に帰りたい。 家族HOPE:家に帰ってきてほしい。トイレで排泄をしてほしい。 NEED:トイレまでの歩行能力獲得。
家屋情報:賃貸マンション。寝室からトイレまで10m弱。廊下は車いす走行可能だが、トイレドア前での方向転換困難。
【現病歴】
X年Y月Z日に自宅トイレ前で転倒し、左大腿骨頸部骨折の診断で前院入院。Z日+5日に人工骨頭置換術を施行。Z日+25日に回復期病院へ転院するが、食思不振や発熱を認め、Y月+2カ月で尿路感染症の診断を受け、前院へ再入院。Y月+4カ月に当施設へ入所となる。
【入所日からの本症例の様子】
入所日当日から帰宅願望が強く、指示理解も難しい状態であった。排泄の訴えが多く聞かれていた為、トイレ誘導を行うものの、排尿はほとんどみられず。日中は車いすにて離床しているが、覚醒状態は悪く、傾眠傾向が強い。また、耐久性が低く、注意も持続しないため、積極的なリハビリ介入は困難であった。夜勤帯の時間は日中に比べて覚醒しており、声出しが多く、睡眠時間は1時間程度。日中と同様に排泄の訴えが聞かれるが、排尿はほとんどみられない。声出しや車いすからの立ち上がりが頻回の為、常に近位見守りが必要であり、介護職員は他利用者のナースコール対応やオムツ交換の際は本症例に同行してもらいながら対応を行っていた。
【入所2週間後の対応】
入所から2週間、様子観察をした結果、他利用者の睡眠時間に影響が出ていた為、頓服で使用していたニトロゼパムを中止し、定時薬としてリスペリドンへ変更した。
【対応後の反応】
眠剤変更後1週間、様子観察をした結果、日差はあるが夜間の睡眠時間は2時間から8時間程度となった。しかし、日中の傾眠傾向が強まったことや腰、臀部の疼痛、暴言・暴力行為などの反応がみられるようになり、入所時以上にリハビリ介入が難しくなった.
【多職種での取り組み】
定時薬に変更したことで夜間の睡眠時間の延長を認めたものの、日中の傾眠傾向は強まった。そこでリハビリ、介護、看護の3職種で話し合い、睡剤に頼らない方法での昼夜逆転傾向改善を目標とし、それぞれの視点から対応していった。
リハビリ:本人の覚醒状態に合わせながら動作練習を中心に実施した。覚醒の悪い際は日光の当たる環境での介入や、夕方の時間帯に足浴を実施した。
介護:日中の外気浴や夕食後に足浴を実施した。帰宅願望や疼痛などの訴えに合わせて、声掛けの内容を変更した。
看護:日中の様子や夜間の睡眠状態を観察し、眠剤の調整を行った。3職種で症例の日々の状態を共有し、反応が良い対応を採用し適宜調整した。
【多職種での取り組み後の反応】
日光浴は閉眼していることが多く、覚醒向上には繋がらなかった。足浴中は落ち着いて会話が可能となった。足浴の有無で睡眠時間に変化はなかった。ベッド臥床した際に腰痛を訴えることが増え、排泄の訴えに繋がることが多かった。腰痛に対して声掛けをすると落ち着いて入眠することができた。
【経過】
取り組み開始1週間後:帰宅願望と日中の傾眠が減少傾向。夜間の睡眠時間は基本8時間。2時間睡眠の日もあるがその割合が減少し、眠剤は定時薬から頓服薬へ変更となった。
取り組み開始1カ月後:排泄の訴えが減少。足浴および眠剤の中止。日中の傾眠傾向はほとんどみられず。夜間の睡眠時間はおおよそ10時間半となった。
【結果】
昼夜逆転傾向の改善を認め、帰宅願望など不穏な様子もみられなくなった。リハビリ介入も可能となったことで伝い歩きやトイレ動作が見守りで可能となり、BI:40点 高齢者日常生活自立度:IIIaに改善した。入所から11カ月後に自宅退所となった。
【考察】
昼夜逆転傾向の改善には、概日リズムの改善を目的に眠剤の使用、日光浴、深部体温の上昇などが効果的であると言われている。しかし、眠剤の使用による効果は一過性であり、周辺症状による影響も述べられている。
本症例において、眠剤を頓服薬から定時薬に変更したことで夜間の睡眠時間の延長を認めたものの、日中の傾眠傾向の改善には至らなかった。今回の取り組みを行い、それぞれの職種からみた本症例の反応を適宜共有していったことで、反応の良い対応を選択することができ、本症例の昼夜逆転傾向の改善に繋がった。
限られた環境の中では、先行研究で推奨される介入が難しいことが多々見受けられる。利用者ひとりひとりに合わせた対応を多職種で考え、創意工夫していくことが、昼夜逆転の改善に必要だと強く実感する症例であった。