講演情報

[14-O-P206-05]外国人介護人材育成における現状と課題

*高塚 尚子1、中村 明日香1 (1. 静岡県 介護老人保健施設桔梗の丘)
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A施設ではEPA介護人材3名、技能実習生2名、在留外国人2名が就業している。今回、外国人介護人材育成における現状と課題分析のためインタビュー調査を実施。言語データから外国人介護人材育成における構成要素をカテゴリー化した。その結果、A施設の外国人介護人材育成における課題は、日本語力を考慮した個別性のあるキャリア支援の実践。そして、多様な人材が力を発揮できる組織風土の醸成であることが示唆された。
1.はじめに
世界的に人材確保の競争が厳しくなり、介護現場での貴重な担い手となる外国人介護人材の重要性は増している。現在、A施設ではEPA介護職員3名、技能実習生2名、在留外国人2名が就業している。当法人では介護人材のキャリア支援のため介護キャリアラダーが導入されているが、外国人介護人材における教育プログラムは確立されていない。高守1)は『外国人介護士の育成モデルは、まず「生活面の支援」を土台に、「日本語・コミュニケーションの課題」「文化・生活習慣の課題」「専門職育成の課題」をサポートしていく。』と述べている。高守1)が示した育成モデルを用いて外国人介護職員を対象にインタビュー調査を実施。インタビュー記録からA施設の外国人介護人材育成における現状と課題を導き出したためここに述べる。
2.研究方法
1)調査概要
調査期間:2024年6月15日~2024年6月30日
調査対象施設:A施設
調査対象者:外国人介護職員7名
2)データ収集方法
高守1)が外国人介護士の育成モデルとして示している「生活面の支援」「日本語・コミュニケーション」「文化・生活習慣」「専門職育成」をカテゴリー分類したアンケートを作成。インタビューを実施し回答内容を分類した。日本語でのインタビューのため理解が不十分な際は口頭にて補足を行った。
3)分析方法
質的内容分析を適用。インタビューによる記録を言語データ化しカテゴリー分類。
4)倫理的配慮
調査協力者に対しては、研究の目的、趣旨・内容、方法を文書と口頭にて説明した。また、本人の権利の尊重と調査協力への任意性について保障し、研究協力をしなくても不利益はないこと、データは匿名化されること、研究結果は公表予定であることも口頭と書面で説明した。
3.結果
1)研究対象者の概要
属性:EPA介護福祉士3名・技能実習生2名・在留外国人介護職員2名
インタビュー調査は7名に依頼し、7名から回答を得た。有効回答率100%。
2)アンケートの回答結果を集計。自由回答を外国人介護人材育成における構成要素にカテゴリー分類。(表1)
(1)生活面の支援
生活で困ったことの有無の問いに、“あり14%、なし14%、どちらでもない57%”との回答あり。サポートの必要性の有無については全対象者が「なし」と回答した。頼りにできる友人や知人の有無については全対象者が「あり」と回答した。自由回答から「家族への経済的援助と長期休暇の理解」「ホームシック」「外国人コミュニティとピアサポーターの存在」を抽出した。
(2)日本語・コミュニケーションの課題
日本語のコミュニケーションで困ることの有無の問いでは“あり29%、なし0%、どちらともいえない71%”言葉のサポートの必要性の有無については“あり43%、なし57%”どちらともいえない0%であった。自由回答から「日本語の学習方法・状況」「受け入れ制度による教育プログラムの違い」「コミュニケーションの状況」「日本語習得の課題」を抽出した。
(3)文化・生活習慣の課題
文化・生活習慣の違いで知ってもらいたいことの有無では“あり71%、なし29%、どちらともいえない0%”であった。困っていることの有無の問いでは、全対象者が「なし」と回答した。自由回答では「宗教についての理解」「日本の生活習慣・マナー」を抽出した。
(4)専門職育成の課題
働きやすい職場環境かの問いでは“はい86%、いいえ14%、どちらともいえない0%”資格取得等のキャリア支援を望むかの問いでは“はい71%、いいえ29%、どちらともいえない0%” キャリアラダーを理解しているかの問いでは“はい0%、いいえ57%、どちらともいえない42%”であった。自由回答では、「外国人介護人材を受け入れる職場風土」「理想の介護像との葛藤」「個々のキャリア志向」「ピアサポートの実際」「年齢に伴う学習・健康面への不安」を抽出した。
4.考察
外国人介護人材の育成の土台となる「生活面の支援」においては、外国人コミュニティでの共助が成り立ち、ピアサポーターの存在により「文化・生活習慣の課題」と共に苦慮していないことが判明した。その反面、「日本語・コミュニケーションの課題」「専門職育成の課題」においては解決すべき課題が明らかになった。
日本語・コミュニケーションの課題においては、全対象者が言葉の壁を経験していた。日本語力(話す・聞く・読む・書く)においては外国人介護職員個々に差があり、達成すべき目標も違うため、業務実践レベルで評価し必要なサポートや学習の提示等を考慮する必要がある。また、「早口の日本語が聞き取れない」との自由回答もあり、日本人職員は分かりやすい日本語で伝わるコミュニケーションの実践が求められる。
また、専門職育成に関する設問では、外国人介護職員の多くは介護職としてのスキルアップを望み、更なるキャリア志向を見据えていることが判明した。厚生労働省では外国人介護人材のキャリア形成を支援するための取組の方向性が示されている。2)A施設のEPA介護職員は他者育成にも貢献しており、キャリア支援においては外国人という枠に捉われる必要はなく、日本人職員と同様に介護キャリアラダーを活用することが有効であると考える。そして、専門職育成の構成要素である「外国人介護人材を受け入れる職場風土」の自由回答から職場風土の成り立ちを感じる一方、日本人職員への負担感情や排他的な感情を抱いたケースも確認されている。多様な人材を受け入れることができる組織風土への更なる発展が求められる。
5.結論
A施設の外国人介護人材育成における課題は、日本語力を考慮した個別性のあるキャリア支援の実践。そして、多様な人材が力を発揮できる組織風土の醸成であることが示唆された。
引用文献
1.高守裕樹,外国人介護士の育成モデル」構築に関する研究,介護福祉学30巻,第1号,P31‐41,2023.1.6
2.外国人介護人材のキャリア形成支援のためのガイドブック,2024,3