講演情報

[14-O-P206-07]技能実習生と特定技能の2ヶ国の外国人材を受け入れて中国・スリランカの仲間と挑む夜勤への道程

*大坪 美保1、大村 貴子1、岩脇 朗子1、坪田 聡1 (1. 富山県 老人保健施設アルカディア雨晴)
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当施設は、中国の技能実習生2名と、スリランカの特定技能外国人1名を、ほぼ同時期に受け入れ、3名に対し言語サポート、生活支援、介護技術指導を実施。タブレット端末や翻訳機の活用、OJT参加、マンツーマン指導を行った。結果、1年後に3名とも夜勤業務が可能となり、急変時の対応も適切に行えた。今後、介護分野での外国人人材は不可欠であり、夜勤可能レベルまで育成した過程を報告する。
【はじめに】
近年、介護現場では技術革新が進み、介護ロボットやAI、loTを使用した業務効率化が図られている。しかし、利用者様とのコミュニケーションやケア全般においては、依然としてマンパワーに大きく頼らざるを得ないのが現状である。この状況下で新たな人材として外国人技能実習生と特定技能外国人を迎え入れた。2022年8月には中国から外国人技能実習生、2023年4月にはスリランカから特定技能外国人を採用し、同時に2ヵ国の受け入れを開始した。両者がともに、1年後に夜勤業務に従事することができた経過と、指導方法に関して報告する。
【方法】
受け入れたのは中国の技能実習生2名(20歳と21歳の女性)、スリランカの特定技能外国人の1名(22歳女性)の計3名である。言語レベルに関しては、中国の技能実習生はN3、スリランカの特定技能外国人はN4の日本語レベルであった。中国の技能実習生は漢字圏出身であり、日本語習得にはあまり時間を要さなかった。一方、スリランカの特定技能外国人は、母国語がシンハラ語でN4を取得していたが、漢字・カタカナの理解にはかなりの困難を伴った。
生活面においては、宿舎に2カ国の外国人が同居することで、文化や生活習慣の違いから問題が多く生じ、共通のコミュニケーションツールは簡単な日本語のみであったことが相互理解を難しくしていた。これに対し、生活指導員が仲介役となり宿舎のルールを決定し、それぞれの母国語で掲示することで、快適な環境を整えていった。さらに、お花見や世界遺産訪問などで気分転換を図ったり、自国の食材が購入できる店舗への外出支援などで、生活面での寂しさを和らげる取り組みも行った。一方で、指導員以外の職員も積極的に両者と交流し、食事や買物に同行するなど「外国人だから」という壁を作らずに接することで、距離感も早期に縮まった。
介護現場では、言語の壁を乗り越えるため、ポータブル翻訳機やタブレット端末を活用した。職員が理解困難な言葉や意味をタブレットで都度説明し理解を深めていった。当法人では以前からタブレット端末による介護記録入力を行っていたため、この方法への移行もスムーズに行われた。また、介護関係記録以外の連絡事項も工夫し、連絡帳やグループノートへの記入を半年程度は平仮名のみでの文章記入を行うことから始め、その後漢字の文章にふり仮名をつけて記入する対応を取った。これらの対応が確認・理解し易くすると共に、日本語を学ぶことも可能となった。更に専門分野の介護・看護用語の習得を促進するため95問からなる漢字の読み方テストを作成した。技能実習生・特定技能外国人の両者共に全問記入できるレベルまで上達し、6ヵ月後には介護記録等のタブレット端末への入力が可能となった。
身体介護の技術指導は、主に介護福祉士実習指導者講習を受けた職員がマンツーマンで行った。介護技術は、母国の方法と全く異なる場面も多く紙面上での知識だけでは不十分だったため、指導職員が利用者様のケアの手本を実際に見せることから始めた。言語でのコミュニケーションに制限があるため、体験を通じてケア方法を理解し身につけていく方法を採用した。その他、感染症に対してはOJTによる勉強会への参加を促すと共に、お互いが“感染者”“介護者”になりプリコーションセットなどの使用方法・手順の知識向上に努めた。リスク関連も同様にOJTの参加で知識を深めるが、この部分に関しては事故・ヒヤリハットなど生命に深く関係することから慎重に指導を進めた。事故・ヒヤリハット報告書を毎日確認することはもちろんであるが、個人個人の危険因子などの説明は丁寧に行い、事故発生時の対応方法や報告内容、手順など具体的にKYTシートなどを用いて指導を行った。
日々の介護記録は、業務開始から約10ヶ月が経過し利用者様の個々の状態把握が出来るようになった頃、介護計画に基づき記録の作成指導を開始した。主体的に利用者様の様子を観察し、必要な報告事項を判断して文章化する作業は当初困難を伴ったが、過去の記録参照や介護計画の本質理解を通じて徐々に上達していった。これらの指導を経て、実習開始から1年2か月後に、夜勤業務への参加が可能となった。夜勤研修は3回行った。特に重点を置いたのは急変時の対応である。利用者様の状態確認、急変時の対応手順、必要物品とその管理場所、看護師との連携方法、ご家族様の対応など具体的かつ詳細に説明した。実際に急変時に遭遇した際も冷静に判断し、看護師や介護士に的確に報告・連絡を行い救急搬送に至るまで問題なく対応が出来ていた。夜勤業務開始にあたり、看護師や他の介護職員からは多少の不安の声もあったが、これまでの経過を見ている限り大きな問題は予想されず反対意見は出なかった。現在、月4回の夜勤に入っており、報告や記録漏れなども見られていない。
【まとめ】
夜勤業務の習得には様々な課題があったが、技能実習生・特定技能外国人の意欲を施設側が真摯に受け止め、向上心が絶えること無いよう体制を整え、サポートする環境づくりと人材育成の基盤整備を着実に行うことでこれらの課題を克服することができた。
【考察】
技能実習生、特定技能外国人の業務に対する学ぶ意欲、努力、忍耐力、協調性、積極性、そして何より優れた人間性が短期間での習得を可能にした大きな要因と思われる。 両者の実直な姿勢により、利用者様からも短期間で信頼を得ることができた。今後、介護分野において特定技能実習生の支援が重要になると予想される。その際、多様性を受け入れる柔軟な姿勢と外国人が孤立しないよう施設全体でサポートする体制が不可欠である。本事例で得た知見を更に発展させ、より効果的な外国人の育成プログラムの構築に繋げていきたいと考えている。