講演情報
[14-O-J002-02]胃瘻造設中の利用者の嚥下訓練とその結果食べたいという気持ちに寄り添っての対応
*桶谷 文乃1、松岡 あき子1、杉元 公子1、岡田 千加子1、坂本 孝子1、岡 直紀1 (1. 兵庫県 介護老人保健施設向陽りんどう苑)
胃瘻造設中の利用者の「食べたい」という気持ちに寄り添い、本氏の嚥下能力をふまえて嚥下訓練を実施した。その結果、1食では有るが経口からの食事摂取につなげることが出来、本氏の満足感、ご家族様の喜びにつなぐことが出来たと考えられたためここに報告する。
はじめに
脳梗塞後後遺症で嚥下機能の低下により胃瘻造設中のA氏、当苑入所前の病院では、胃瘻造設中ではあったが1食は経口摂取をされており、その後誤嚥性肺炎により再び三食注入対応となり当苑に入所され、注入対応で過ごされていた。ある日フロアで過ごしていた際、他利用者のおやつを食べようとするヒヤリハット事例が起こった。その後話し合いを行い、本氏の食べたいという気持ちと家族の経口で食べさせたいという気持ちから嚥下訓練を行いその気持ちに少しでも答えられるように対応した。
1:研究目的
A氏の食べたいという思いに寄り添い、経口での摂取が少しでも出来ることを目指す
2:利用者様紹介
A氏 87歳 女性 要介護度5 日常生活自立度C1
脳梗塞後遺症後、構音障害と右半身麻痺がある。前歯の数本が無いが残存歯は上下ともにあり。
リクライニング車椅子利用中。時折不穏があるが、落ち着いている時にはスタッフとある程度会話も行う事が出来る。
・倫理的配慮
この研究にあたり個人情報保護の為対象者が特定できない様に配慮し本研究への参加により対象者への不利益が生じない事を本人家族に説明し同意を得た。
・研究期間 2024年4月~現在
・評価方法 経口からの摂取量とムセ込みの有無
方法
A氏の食べたいという気持ちを家族に伝え嚥下訓練の許可を頂く。
家族も可能であれば経口摂取が出来たらと思う気持ちがあり、Dr、看護師、リハビリ、介護士でチームを組んで嚥下訓練を開始した。
口腔衛生の改善もまずは必要であった。
A氏は残存歯があるが口腔ケアがあまり好きではなく歯ブラシを噛んで離してくれない事もこれまでに多くあった。
少しずつ食べる練習をしてみませんか?と声をかけ口腔ケアとアイスマッサージを行った。
スタッフが全て行うのではなく、初めは自分で歯ブラシを持って好きに磨いて貰い、その後スタッフが仕上げ磨きをし対応した。
今迄は嫌がって歯ブラシを強く噛んだりすることもあったが、少しずつ口腔ケアもスタッフに委ねてくれるようになった。
アイスマッサージは初め冷たくて嫌がる事もあったが、噛んだり舐めたりして貰いながら少しづつ慣れて貰う事で行う事が出来た。
リハビリにも協力を仰ぎ、嚥下体操や口を動かす運動、発声練習も加えてもらった。また嚥下訓練の記録をつける為チェックシートの導入を行った。
・4月1日~
水分をスプーンで数さじから開始、誤嚥によるムセなどが無いことを1週間程確認したのち、トロミをつけた白湯→お茶→経口補水液と飲用して頂くものを変更しつつ少量ずつ経口からの補水量を増量していった。
初めに水分を1さじ口にしたときA氏が「甘いね」とにっこりと微笑まれていた。
・4月24日~
Drに相談の上アイソカルゼリーを1/4量から開始した。
今日からこのゼリーを食べる練習をしますよと伝え口腔ケア、アイスマッサージの後に摂取してもらった。
今日は〇〇味ですよと伝えながら食べてもらい、色々な味を楽しんでもらった。
時には食べることに集中できず、嚥下前に喋ろうとしムセそうになることもあったが、声をかけ食べることに集中してもらうことでむせる事も少なくなっていった。トロミをつけた水分と違い、食感が違う為初めは口腔内で咀嚼するのもうまく出来なかったが、日数を経過するごとに上手に上あごと舌で上手にすりつぶして咀嚼する事が出来るようになっていった。
・5月7日~
Drに嚥下状態良好の旨を伝えアイソカルゼリー摂取量を1/2個に増量。
本氏にも同様の説明をし、増量したうえで嚥下訓練を継続する。摂食時に喋ろうとする事はあるが以前より落ち着いて嚥下する事が出来ている。
可能な時は本氏に食べた事への感想も聴くことにしていた。「美味しくて病みつきになっちゃいそう」や「これは甘くて美味しい」と食べる事への喜びの言葉が多く聞かれるようになった。
家族への報告も行い、本氏が摂食している所の動画や、写真を見てもらい説明と情報の共有に努めた。
5月20日~
アイソカルゼリー1個へと増量。家族への共有も行う。今までの倍量の為、誤嚥にさらに留意した。
PEG交換のタイミングもあった為、病院の医師にも嚥下の状態や消化の状態を確認する。
右半身麻痺による右声帯の動きが十分ではないものの少量ずつ摂取量の増加は可能との返事あり。腸管の動きも問題ないと診察される。
一口の量も、嚥下訓練開始当初より大き目の一口でも上手に舌と上顎で咀嚼し摂食出来るようになった。
月毎の口腔衛生士の評価も残存歯の状態も目立った磨き残しも無く元からの着色はあるが口腔内の衛生は保たれているとの評価。
リンゴ味のアイソカルゼリーを食べた後などに、リンゴの唄をスタッフと一緒に歌ってくれた。
7月~
嚥下状態良好の為注入のうち昼の1回分を経口摂取への移行となる。
アイソカルゼリー1.5個で対応、水分のみ胃瘻からの注入へと変更を行う。家族にも共有を行う。
苑の行事で作ったフルーチェも他の利用者と一緒に摂取する事が出来、本氏もとても喜ばれていた。
3:結果
現状、完全な経口移行とは至っていないが、本氏の食べたいという思いに対して少しでも寄り添い1食を経口移行する事が出来た。
4:結論
どのようなステージにおいても人間の三大欲求の一つである食欲に対しては、可能な限り寄り添い、本人の意向に沿うことで満足感を得て頂くことが出来るのではないかと思った。本氏もスタッフと穏やかに話してくれることも増えた。
5:まとめ
今回の研究において、全ての胃瘻の利用者に行えるわけではないが、残存能力に応じて経口移行へと少しでもすすめられ、当該利用者のQOLの向上が出来たと思われる。
胃瘻だから食べられない、という認識ではなく、食事摂取に移行できそうな可能性があるのであれば、利用者の思いも確認した上で対応する必要性があるのではないかと認識した。今後も当該利用者の摂食訓練を無理のない範囲で行っていきたい。
脳梗塞後後遺症で嚥下機能の低下により胃瘻造設中のA氏、当苑入所前の病院では、胃瘻造設中ではあったが1食は経口摂取をされており、その後誤嚥性肺炎により再び三食注入対応となり当苑に入所され、注入対応で過ごされていた。ある日フロアで過ごしていた際、他利用者のおやつを食べようとするヒヤリハット事例が起こった。その後話し合いを行い、本氏の食べたいという気持ちと家族の経口で食べさせたいという気持ちから嚥下訓練を行いその気持ちに少しでも答えられるように対応した。
1:研究目的
A氏の食べたいという思いに寄り添い、経口での摂取が少しでも出来ることを目指す
2:利用者様紹介
A氏 87歳 女性 要介護度5 日常生活自立度C1
脳梗塞後遺症後、構音障害と右半身麻痺がある。前歯の数本が無いが残存歯は上下ともにあり。
リクライニング車椅子利用中。時折不穏があるが、落ち着いている時にはスタッフとある程度会話も行う事が出来る。
・倫理的配慮
この研究にあたり個人情報保護の為対象者が特定できない様に配慮し本研究への参加により対象者への不利益が生じない事を本人家族に説明し同意を得た。
・研究期間 2024年4月~現在
・評価方法 経口からの摂取量とムセ込みの有無
方法
A氏の食べたいという気持ちを家族に伝え嚥下訓練の許可を頂く。
家族も可能であれば経口摂取が出来たらと思う気持ちがあり、Dr、看護師、リハビリ、介護士でチームを組んで嚥下訓練を開始した。
口腔衛生の改善もまずは必要であった。
A氏は残存歯があるが口腔ケアがあまり好きではなく歯ブラシを噛んで離してくれない事もこれまでに多くあった。
少しずつ食べる練習をしてみませんか?と声をかけ口腔ケアとアイスマッサージを行った。
スタッフが全て行うのではなく、初めは自分で歯ブラシを持って好きに磨いて貰い、その後スタッフが仕上げ磨きをし対応した。
今迄は嫌がって歯ブラシを強く噛んだりすることもあったが、少しずつ口腔ケアもスタッフに委ねてくれるようになった。
アイスマッサージは初め冷たくて嫌がる事もあったが、噛んだり舐めたりして貰いながら少しづつ慣れて貰う事で行う事が出来た。
リハビリにも協力を仰ぎ、嚥下体操や口を動かす運動、発声練習も加えてもらった。また嚥下訓練の記録をつける為チェックシートの導入を行った。
・4月1日~
水分をスプーンで数さじから開始、誤嚥によるムセなどが無いことを1週間程確認したのち、トロミをつけた白湯→お茶→経口補水液と飲用して頂くものを変更しつつ少量ずつ経口からの補水量を増量していった。
初めに水分を1さじ口にしたときA氏が「甘いね」とにっこりと微笑まれていた。
・4月24日~
Drに相談の上アイソカルゼリーを1/4量から開始した。
今日からこのゼリーを食べる練習をしますよと伝え口腔ケア、アイスマッサージの後に摂取してもらった。
今日は〇〇味ですよと伝えながら食べてもらい、色々な味を楽しんでもらった。
時には食べることに集中できず、嚥下前に喋ろうとしムセそうになることもあったが、声をかけ食べることに集中してもらうことでむせる事も少なくなっていった。トロミをつけた水分と違い、食感が違う為初めは口腔内で咀嚼するのもうまく出来なかったが、日数を経過するごとに上手に上あごと舌で上手にすりつぶして咀嚼する事が出来るようになっていった。
・5月7日~
Drに嚥下状態良好の旨を伝えアイソカルゼリー摂取量を1/2個に増量。
本氏にも同様の説明をし、増量したうえで嚥下訓練を継続する。摂食時に喋ろうとする事はあるが以前より落ち着いて嚥下する事が出来ている。
可能な時は本氏に食べた事への感想も聴くことにしていた。「美味しくて病みつきになっちゃいそう」や「これは甘くて美味しい」と食べる事への喜びの言葉が多く聞かれるようになった。
家族への報告も行い、本氏が摂食している所の動画や、写真を見てもらい説明と情報の共有に努めた。
5月20日~
アイソカルゼリー1個へと増量。家族への共有も行う。今までの倍量の為、誤嚥にさらに留意した。
PEG交換のタイミングもあった為、病院の医師にも嚥下の状態や消化の状態を確認する。
右半身麻痺による右声帯の動きが十分ではないものの少量ずつ摂取量の増加は可能との返事あり。腸管の動きも問題ないと診察される。
一口の量も、嚥下訓練開始当初より大き目の一口でも上手に舌と上顎で咀嚼し摂食出来るようになった。
月毎の口腔衛生士の評価も残存歯の状態も目立った磨き残しも無く元からの着色はあるが口腔内の衛生は保たれているとの評価。
リンゴ味のアイソカルゼリーを食べた後などに、リンゴの唄をスタッフと一緒に歌ってくれた。
7月~
嚥下状態良好の為注入のうち昼の1回分を経口摂取への移行となる。
アイソカルゼリー1.5個で対応、水分のみ胃瘻からの注入へと変更を行う。家族にも共有を行う。
苑の行事で作ったフルーチェも他の利用者と一緒に摂取する事が出来、本氏もとても喜ばれていた。
3:結果
現状、完全な経口移行とは至っていないが、本氏の食べたいという思いに対して少しでも寄り添い1食を経口移行する事が出来た。
4:結論
どのようなステージにおいても人間の三大欲求の一つである食欲に対しては、可能な限り寄り添い、本人の意向に沿うことで満足感を得て頂くことが出来るのではないかと思った。本氏もスタッフと穏やかに話してくれることも増えた。
5:まとめ
今回の研究において、全ての胃瘻の利用者に行えるわけではないが、残存能力に応じて経口移行へと少しでもすすめられ、当該利用者のQOLの向上が出来たと思われる。
胃瘻だから食べられない、という認識ではなく、食事摂取に移行できそうな可能性があるのであれば、利用者の思いも確認した上で対応する必要性があるのではないかと認識した。今後も当該利用者の摂食訓練を無理のない範囲で行っていきたい。