講演情報
[14-O-J002-04]「口から美味しく食べる」を「生きる楽しみ」に!~当施設での摂食嚥下における多職種連携について~
*宮本 奈緒1、西岡 明日香1、北原 未来1 (1. 香川県 介護老人保健施設みの荘)
食事に時間を要し、摂取量が低下した利用者に対し、多職種で協働し問題解決に取り組んだところ、改善がみられたため報告する。毎月の委員会にてKTバランスチャートを用いて多職種で評価を行い、問題点を明確化し対策を検討した。その結果、姿勢、口腔機能、食事動作、活動の面で改善が認められた。食事の問題は多角的な視点から評価を行い、問題点を抽出し、多職種でアプローチをすることが重要であると考える。
【はじめに】
当施設では、「口から美味しく食べる」を目標に、多職種による摂食嚥下機能改善多職種連携チームを発足した。今回、新型コロナ感染症罹患による影響で食事に時間を要し、食事摂取量の低下がみられた利用者に、KTバランスチャートを用いて、多職種で協働し評価や対策を検討したところ、改善がみられた経緯について報告する。
【症例紹介】
70代女性。要介護度3。普通型車椅子座位で食事摂取しているも、右への傾きがあり座位保持困難で、食べこぼしがみられた。総義歯を使用しているも、修理が必要な状態で、咀嚼など口腔機能の低下を認めた。活気なく、食事や入浴以外は居室で臥床していることが多かった。
【方法】
KTバランスチャートの13項目を、項目ごとに看護師、介護士、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士で分担し、評価を行った。あわせて、実際の食事場面を観察し、その結果から、問題点を明確化し対策を検討した。
【結果】
KTバランスチャートの13項目中、「食べる意欲」「口腔機能」「咀嚼・送り込み」「活動」「食物形態」の項目で点数の低下がみられた。さらに食事場面の観察から、姿勢の崩れがあり長時間の座位保持が困難であること、食事に1時間程度要していることが確認された。以上のことから、「姿勢」「食事動作」「口腔機能」「活動」の4つを問題点とし、それぞれの対策を検討した。
【経過】
(1)姿勢
リハビリ担当者に、車椅子のシーティングを相談した。骨盤を軽度後傾し、右側に丸めた毛布を入れる事で座位姿勢が安定した。食事場面を観察し、姿勢の崩れがないか評価を行った。
(2)食事動作
昇降テーブルに変更し、机の高さを調整することで上肢が安定し、食事動作が円滑になった。また、リウマチの既往があるため、持ち手付きの介護食器に移して提供することで、食器が持ちやすくなり食べこぼしが減少した。水分も持ち手付きのストローマグに変更した。
(3)口腔機能
毎食後職員が義歯清掃し、口腔内の清潔に努めた。入所以前より使用していた義歯は安定が悪く、食事摂取時等に不具合が生じており、本人より新義歯作製の希望がきかれたため、施設の協力歯科医院を受診し、作製、調整を行った。義歯完成後、食物を口に入れてから嚥下するまでがスムーズとなり食事時間が短縮した。食前に集団での口腔体操に参加すると共に、その他の時間でも個別に口腔体操を行う時間を設けることで、舌口唇の運動機会の増加を図った。
(4)活動
リハビリ担当者と相談し、状態に合わせて離床時間の延長を図った。食事30分前には離床して口腔体操を行い、昼食後に臥床する時間を設けた。その後、15時の集団体操までに再度離床することとし、日中の臥床時間を朝食後と昼食後1~2時間と短縮していった。さらに、離床時にリハビリや個別の口腔体操などの活動を行うことで、活動量も増加した。耐久性が向上するにつれ、笑顔も増加した。
【考察】
姿勢・食事動作については、リハビリ担当者に相談したことで、専門的知見から利用者に合った姿勢調整が可能となった。また、昇降テーブルに変更した事で、机の高さが調整でき、食事動作が円滑になったことから、姿勢が食事において重要なポイントの一つであることが認識できた。また、座位姿勢が安定し視野が広がったことで、器の中の食べ物が見えるようになり、食べる意欲の向上に繋がったのではないかと考えられた。また、ご家族が持参したふりかけ等を主食に付加する事で、全体の食事摂取量も増加した。口腔機能については、新しく義歯を作製し調整したことで、咀嚼運動や食塊形成などが可能となり、食事摂取時間が短縮したのではないかと考えられた。さらに、本人に適合した義歯は有用性が高いことが実証できたと考えられる。また、集団での口腔体操以外に、個別の口腔体操も実施したことで、舌口唇の運動機能が向上し、義歯と相まって食塊形成や送り込みがよりスムーズになったのではないかと考えられた。活動については、状態に合わせて離床機会を設けていくことで、離床時間が延長した。離床時に、リハビリや口腔体操などの活動機会だけでなく、スタッフや他利用者とのコミュニケーション機会も増加したことで、表情が明るくなりQOLの向上にも繋がったと考えられた。
【まとめ】
「口から美味しく食べる」ことは口腔機能や嚥下機能だけではなく、様々な機能が関係している。今回KTバランスチャートを導入することで、多角的な視点から評価を行い、問題点を明確化できた。また、各問題点について多職種で協働し、一日を通じて利用者の支援にあたることが、ADLだけでなくQOLの向上にも繋がる重要な関わりであると考えられた。利用者の食べたい意思と、それを叶えてあげたい職員同士の思いを繋ぐために、今後もチーム一丸となり、利用者の「食べる」を支えていきたい。
【参考文献】小山珠美(編集)「口から食べる幸せをサポートする包括的スキル KTバランスチャートの活用と支援」第2版.pp.12-92,医学書院
当施設では、「口から美味しく食べる」を目標に、多職種による摂食嚥下機能改善多職種連携チームを発足した。今回、新型コロナ感染症罹患による影響で食事に時間を要し、食事摂取量の低下がみられた利用者に、KTバランスチャートを用いて、多職種で協働し評価や対策を検討したところ、改善がみられた経緯について報告する。
【症例紹介】
70代女性。要介護度3。普通型車椅子座位で食事摂取しているも、右への傾きがあり座位保持困難で、食べこぼしがみられた。総義歯を使用しているも、修理が必要な状態で、咀嚼など口腔機能の低下を認めた。活気なく、食事や入浴以外は居室で臥床していることが多かった。
【方法】
KTバランスチャートの13項目を、項目ごとに看護師、介護士、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士で分担し、評価を行った。あわせて、実際の食事場面を観察し、その結果から、問題点を明確化し対策を検討した。
【結果】
KTバランスチャートの13項目中、「食べる意欲」「口腔機能」「咀嚼・送り込み」「活動」「食物形態」の項目で点数の低下がみられた。さらに食事場面の観察から、姿勢の崩れがあり長時間の座位保持が困難であること、食事に1時間程度要していることが確認された。以上のことから、「姿勢」「食事動作」「口腔機能」「活動」の4つを問題点とし、それぞれの対策を検討した。
【経過】
(1)姿勢
リハビリ担当者に、車椅子のシーティングを相談した。骨盤を軽度後傾し、右側に丸めた毛布を入れる事で座位姿勢が安定した。食事場面を観察し、姿勢の崩れがないか評価を行った。
(2)食事動作
昇降テーブルに変更し、机の高さを調整することで上肢が安定し、食事動作が円滑になった。また、リウマチの既往があるため、持ち手付きの介護食器に移して提供することで、食器が持ちやすくなり食べこぼしが減少した。水分も持ち手付きのストローマグに変更した。
(3)口腔機能
毎食後職員が義歯清掃し、口腔内の清潔に努めた。入所以前より使用していた義歯は安定が悪く、食事摂取時等に不具合が生じており、本人より新義歯作製の希望がきかれたため、施設の協力歯科医院を受診し、作製、調整を行った。義歯完成後、食物を口に入れてから嚥下するまでがスムーズとなり食事時間が短縮した。食前に集団での口腔体操に参加すると共に、その他の時間でも個別に口腔体操を行う時間を設けることで、舌口唇の運動機会の増加を図った。
(4)活動
リハビリ担当者と相談し、状態に合わせて離床時間の延長を図った。食事30分前には離床して口腔体操を行い、昼食後に臥床する時間を設けた。その後、15時の集団体操までに再度離床することとし、日中の臥床時間を朝食後と昼食後1~2時間と短縮していった。さらに、離床時にリハビリや個別の口腔体操などの活動を行うことで、活動量も増加した。耐久性が向上するにつれ、笑顔も増加した。
【考察】
姿勢・食事動作については、リハビリ担当者に相談したことで、専門的知見から利用者に合った姿勢調整が可能となった。また、昇降テーブルに変更した事で、机の高さが調整でき、食事動作が円滑になったことから、姿勢が食事において重要なポイントの一つであることが認識できた。また、座位姿勢が安定し視野が広がったことで、器の中の食べ物が見えるようになり、食べる意欲の向上に繋がったのではないかと考えられた。また、ご家族が持参したふりかけ等を主食に付加する事で、全体の食事摂取量も増加した。口腔機能については、新しく義歯を作製し調整したことで、咀嚼運動や食塊形成などが可能となり、食事摂取時間が短縮したのではないかと考えられた。さらに、本人に適合した義歯は有用性が高いことが実証できたと考えられる。また、集団での口腔体操以外に、個別の口腔体操も実施したことで、舌口唇の運動機能が向上し、義歯と相まって食塊形成や送り込みがよりスムーズになったのではないかと考えられた。活動については、状態に合わせて離床機会を設けていくことで、離床時間が延長した。離床時に、リハビリや口腔体操などの活動機会だけでなく、スタッフや他利用者とのコミュニケーション機会も増加したことで、表情が明るくなりQOLの向上にも繋がったと考えられた。
【まとめ】
「口から美味しく食べる」ことは口腔機能や嚥下機能だけではなく、様々な機能が関係している。今回KTバランスチャートを導入することで、多角的な視点から評価を行い、問題点を明確化できた。また、各問題点について多職種で協働し、一日を通じて利用者の支援にあたることが、ADLだけでなくQOLの向上にも繋がる重要な関わりであると考えられた。利用者の食べたい意思と、それを叶えてあげたい職員同士の思いを繋ぐために、今後もチーム一丸となり、利用者の「食べる」を支えていきたい。
【参考文献】小山珠美(編集)「口から食べる幸せをサポートする包括的スキル KTバランスチャートの活用と支援」第2版.pp.12-92,医学書院