講演情報
[14-O-J002-06]形あるおかずが食べたい~歯茎で潰せる柔らかい食事を導入~
*工藤 由美1、五十嵐 有那1、渡辺 友美1、加藤 一生1 (1. 山形県 医療法人徳洲会 介護老人保健施設 舟形徳洲苑)
形あるおかずが食べたいという思いを受け止め、咀嚼機能軽度低下者に適した新たな食事形態を導入。導入後の摂取量調査とアンケート調査を実施し、極軟菜食対象者の見直しと調理方法の検討・統一を図った。咀嚼機能が低下しても形あるものを摂取することで、食べる楽しみや摂取量増加に繋がった。また、病院や施設間の共通言語として活用できるようになったのでここに報告する。
【はじめに】
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021は食事の分類及びとろみの分類を示したもので、コード番号をもって分類されている。当施設は、コード4(形があり、ばらけにくく、粘りつきにくいもの、箸で切れる軟らかさ)に分類できる食事形態がなく、軟菜食は常食と調理方法に変わりはなく、山菜・こんにゃく等の食材を抜いただけだった。利用者より「刻んだおかずは、なに食べているかわかならい、形あるものが食べたい。」と要望があっても、適する食事形態がなく食上げすることができなかった。その為、歯茎で押し潰せるような軟らかい食事形態が必要と考え、極軟菜食と称し新たに導入したのでここに報告する。
【研究目的】
咀嚼機能低下者に適した食事を提供し、食べる楽しみを見出し摂取量増加に繋げる。病院や施設間の共通言語として本分類を活用する。
【研究方法】
1倫理的配慮
対象者に不利益が生じないこと、プライバシーへの配慮を行うことを口頭で説明し同意を得る。
2対象者
一般療養棟(以下一般棟とする)、認知棟専門棟(以下認知棟とする)、通所リハビリテーション(以下通リハとする)。
3研究期間
令和5年10月~令和5年12月
4方法
1)対象者の選出
他職種で咀嚼機能軽度低下、上下の歯槽提間で押し潰すことができる方を選出。
2)導入前と導入後の摂取量調査
導入開始前11月11日~11月30日と導入開始後12月1日~12月20日。
3)アンケート実施
極軟菜食摂取者を対象。調査日12月30日、1月4・5日。調査項目:硬さ、味付け、外観、形態、その他意見。
4)調理方法統一化
箸で切れる軟らかさ、指の腹で潰せる硬さに調理することを基本とし、献立表に調理方法等を記入。
5)食事形態の整理
食事形態9種類を7種類へ。軟菜食、一口カット、粗きざみ食を廃止、極軟菜食を追加。
【結果】
1)一般棟11名、認知棟13名、通リハ11名に極軟菜食を提供。
2)摂取量増加:一般棟55%・認知棟69%・通リハ64%。減少:一般棟18%・認知棟23%・通リハ8%。変化無:一般棟27%・認知棟8%・通リハ18%。
3)アンケート結果
硬さ 柔らかい:一般棟0%・認知棟31%・通リハ56%。普通:一般棟82%・認知棟54%、通リハ22%。硬い:一般棟9%・認知棟0%・通リハ11%。
味付け 濃い:一般棟0%・認知棟8%・通リハ1%。丁度:一般棟82%・認知棟77%・通リハ56%。薄い:一般棟9%・認知棟0%・通リハ22%。
外観 良い:一般棟46%・認知棟31%・通リハ67%。普通:一般棟36%・認知棟46%・通リハ11%。悪い:一般棟9%・認知棟8%・通リハ11%。
形態 今の方が良い:一般棟36%・認知棟38%・通リハ67%。前の方が良い:一般棟28%・認知棟8%・通リハ22%。
その他意見:「今の食事楽しんで食べている。形があって美味しい。」「全部いい塩梅だ。」「今までずっと形あるおかずが食べたいと言い続けてきて、ようやく叶った。」「刻まれていると何を食べているかわからなかったけど、今は食材の味がわかって美味しい。」「あまり柔らか過ぎて前のおかずの方がいい。」
4)調理方法の統一:調理方法や硬さにばらつきが生じた。肉や魚等を柔らかくする「食肉品質改良剤製剤」を浸す時間や量、加熱時間、調理方法等をノートに記入し情報共有を図った。導入したことにより食材費の増加、業務の負担が問題になり、食材の見直しや作業の効率化を検討。
5)食事形態の変更はスムーズに移行できた。
【考察】
要介護高齢者の調査では、歯科医療や口腔健康管理が必要である高齢者は64・3%、そのうち過去1年以内に歯科受診していたのは2.4%であった。また、噛むことに問題がある利用者がいる事業者は60%以上で、当施設は噛むことに問題がある利用者の割合は59・3%と半数以上を占めている。高齢に伴い、義歯による口腔機能の回復はますます重要になってくるが、認知症の場合、義歯を作ること自体が難しい上に、義歯の使用はさらに困難である。このことから学会嚥下調整分類の嚥下調整食は高齢者施設には不可欠と考える。
摂取量の調査では55~65%摂取量が増加したが、8~23%の方が減少。調理方法が統一ならず硬い状態で提供したのが減少要因の一つと考える。
味付けは丁度との回答77~82%。「魚肉品質改良剤製剤」は、食材に浸み込む食塩相当量が4%なので塩抜きと調味料の調整が必要。濃いと感じている方は0~11%と少ないことから「食肉品質改良剤製剤」の影響は少ないと考える。
外観が悪いとの回答は8~11%と少ないが、加熱時間は食材の色に影響するので、意識して調理を行う必要がある。
食事形態は8~28%が前の方が良いとの回答。柔らかく調理するので食感がなくなる為、咀嚼・嚥下機能に問題がない方には評価を行い見直しが必要と考える。
【結論】
コード4の食事形態を新たに導入したことで、きざみ食から形あるものが摂取できるようになり、食べる楽しみ、摂取量の増加に繋がった。また、学会嚥下調整食分類に当施設の食事形態を区分することで、病院・施設へ連携共通用語として活用できるようになった。
【参考文献】
日本摂食嚥下リハビリ会誌25(2)135-149
【引用文献】
厚生労働省社会保障審査会介護給付分科会令和5年9月15日資料、水口俊介高齢者化社会における義歯治療の重要性と最新のトピックス
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021は食事の分類及びとろみの分類を示したもので、コード番号をもって分類されている。当施設は、コード4(形があり、ばらけにくく、粘りつきにくいもの、箸で切れる軟らかさ)に分類できる食事形態がなく、軟菜食は常食と調理方法に変わりはなく、山菜・こんにゃく等の食材を抜いただけだった。利用者より「刻んだおかずは、なに食べているかわかならい、形あるものが食べたい。」と要望があっても、適する食事形態がなく食上げすることができなかった。その為、歯茎で押し潰せるような軟らかい食事形態が必要と考え、極軟菜食と称し新たに導入したのでここに報告する。
【研究目的】
咀嚼機能低下者に適した食事を提供し、食べる楽しみを見出し摂取量増加に繋げる。病院や施設間の共通言語として本分類を活用する。
【研究方法】
1倫理的配慮
対象者に不利益が生じないこと、プライバシーへの配慮を行うことを口頭で説明し同意を得る。
2対象者
一般療養棟(以下一般棟とする)、認知棟専門棟(以下認知棟とする)、通所リハビリテーション(以下通リハとする)。
3研究期間
令和5年10月~令和5年12月
4方法
1)対象者の選出
他職種で咀嚼機能軽度低下、上下の歯槽提間で押し潰すことができる方を選出。
2)導入前と導入後の摂取量調査
導入開始前11月11日~11月30日と導入開始後12月1日~12月20日。
3)アンケート実施
極軟菜食摂取者を対象。調査日12月30日、1月4・5日。調査項目:硬さ、味付け、外観、形態、その他意見。
4)調理方法統一化
箸で切れる軟らかさ、指の腹で潰せる硬さに調理することを基本とし、献立表に調理方法等を記入。
5)食事形態の整理
食事形態9種類を7種類へ。軟菜食、一口カット、粗きざみ食を廃止、極軟菜食を追加。
【結果】
1)一般棟11名、認知棟13名、通リハ11名に極軟菜食を提供。
2)摂取量増加:一般棟55%・認知棟69%・通リハ64%。減少:一般棟18%・認知棟23%・通リハ8%。変化無:一般棟27%・認知棟8%・通リハ18%。
3)アンケート結果
硬さ 柔らかい:一般棟0%・認知棟31%・通リハ56%。普通:一般棟82%・認知棟54%、通リハ22%。硬い:一般棟9%・認知棟0%・通リハ11%。
味付け 濃い:一般棟0%・認知棟8%・通リハ1%。丁度:一般棟82%・認知棟77%・通リハ56%。薄い:一般棟9%・認知棟0%・通リハ22%。
外観 良い:一般棟46%・認知棟31%・通リハ67%。普通:一般棟36%・認知棟46%・通リハ11%。悪い:一般棟9%・認知棟8%・通リハ11%。
形態 今の方が良い:一般棟36%・認知棟38%・通リハ67%。前の方が良い:一般棟28%・認知棟8%・通リハ22%。
その他意見:「今の食事楽しんで食べている。形があって美味しい。」「全部いい塩梅だ。」「今までずっと形あるおかずが食べたいと言い続けてきて、ようやく叶った。」「刻まれていると何を食べているかわからなかったけど、今は食材の味がわかって美味しい。」「あまり柔らか過ぎて前のおかずの方がいい。」
4)調理方法の統一:調理方法や硬さにばらつきが生じた。肉や魚等を柔らかくする「食肉品質改良剤製剤」を浸す時間や量、加熱時間、調理方法等をノートに記入し情報共有を図った。導入したことにより食材費の増加、業務の負担が問題になり、食材の見直しや作業の効率化を検討。
5)食事形態の変更はスムーズに移行できた。
【考察】
要介護高齢者の調査では、歯科医療や口腔健康管理が必要である高齢者は64・3%、そのうち過去1年以内に歯科受診していたのは2.4%であった。また、噛むことに問題がある利用者がいる事業者は60%以上で、当施設は噛むことに問題がある利用者の割合は59・3%と半数以上を占めている。高齢に伴い、義歯による口腔機能の回復はますます重要になってくるが、認知症の場合、義歯を作ること自体が難しい上に、義歯の使用はさらに困難である。このことから学会嚥下調整分類の嚥下調整食は高齢者施設には不可欠と考える。
摂取量の調査では55~65%摂取量が増加したが、8~23%の方が減少。調理方法が統一ならず硬い状態で提供したのが減少要因の一つと考える。
味付けは丁度との回答77~82%。「魚肉品質改良剤製剤」は、食材に浸み込む食塩相当量が4%なので塩抜きと調味料の調整が必要。濃いと感じている方は0~11%と少ないことから「食肉品質改良剤製剤」の影響は少ないと考える。
外観が悪いとの回答は8~11%と少ないが、加熱時間は食材の色に影響するので、意識して調理を行う必要がある。
食事形態は8~28%が前の方が良いとの回答。柔らかく調理するので食感がなくなる為、咀嚼・嚥下機能に問題がない方には評価を行い見直しが必要と考える。
【結論】
コード4の食事形態を新たに導入したことで、きざみ食から形あるものが摂取できるようになり、食べる楽しみ、摂取量の増加に繋がった。また、学会嚥下調整食分類に当施設の食事形態を区分することで、病院・施設へ連携共通用語として活用できるようになった。
【参考文献】
日本摂食嚥下リハビリ会誌25(2)135-149
【引用文献】
厚生労働省社会保障審査会介護給付分科会令和5年9月15日資料、水口俊介高齢者化社会における義歯治療の重要性と最新のトピックス