講演情報

[14-O-J003-01]最期の食事“いろどり食”最期まで口から食べる看取りケア

*石川 美佳1、前田 友里奈1 (1. 愛知県 にしお老人保健施設 彩り、2. にしお老人保健施設 彩り)
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老健を最期の場所(看取り)と選択されるご家族も増えておられる。最期まで食事を口から召し上がって頂けるよう、その方に合わせた量で、口当たりが良く、飲み込みやすい形状にしたいと多職種で検討し、新しい食事形態を完成させた。また、その方の思い出の食べ物や好物をご家族に教えて頂き、一緒に考えた「思い出レシピ」を提供し、実際に食べて頂いた実績を報告する。
【はじめに】
老人保健施設として多くの役割を担う中で、ご利用者の「自分らしい最期」を実現する看取り介護は、私たちの大切な使命です。
当施設では、年間30名の看取りを経験しており、特に食事に関するケアに重点を置いている。
看取り期には食事量が減少することが自然な変化とはいえ、ご家族にとっては受け入れがたい状況になりがちです。介護職員も最期まで好きなものを安全に食べてもらいたいという願いを持っていた。
当施設での食事形態は5種類あり、看取り期の食事は栄養補助食品など少量で高栄養を摂取することが中心でした。また食事摂取が困難な場合は、点滴のみの対応となっていた。
最期を迎える方に対して「高カロリーが必要なのか?」、「最期に食べるものは本当にそれでいいのか?」と言う思いが強くなり、栄養だけにこだわるのではなく、その方らしい食事形態を提案し、その方の最期を彩るのにふさわしい食事「いろどり食」を完成させたのでここに報告する。
【完成までの流れ】
当施設では月に一度、管理栄養士・調理師・言語聴覚士・看護師・介護福祉士で構成されている「給食委員会」を開催しており、その方の最期を彩るにふさわしい食事を提供する為、2023年7月から「いろどり食」について話し合いを始め、12月に完成した。
検討した内容
(1)食事内容・提供量
目安として1日400キロカロリーとして素材の味を生かしたレシピを考案し、重湯・粥ミキサー・だし汁・果汁・野菜ペースト・パン粥をメインメニューとして、多職種が協力し、その方の状態にあった食事形態や量を検討した。西尾の抹茶を使用した抹茶ミキサー粥を考案したり、以前から食事量の少ないご利用者に提供していた、大豆を使用した健康スープを汁物の代わりに提供できないか検討。また、口当たりの良いアイスクリームやかき氷の希望があれば対応できるようにした。
(2)提供時間
「いろどり食」へ変更になったご利用者は、決められた時間に提供するのではなく、その方の体調や覚醒が良い時間を話し合い、提供時間を決めることができるように変更
(3)食器やスプーンの検討
柔らかい質感に加え、舌触りの良さから、細目タイプの木製スプーンに変え、提供する食事の全体量も少ない為、食器も小さい器に変更しバリエーションが多いものに変える。
(4)多職種への伝達
統一されたケアを目指す為、社内研修を実施し「いろどり食」の経緯や食事内容を説明し、試食会を行う
(5)思い出レシピ
ご家族に「ご本人が好きな料理・食材」や「ご家族の中で思い出に残っているメニュー」を聞き、その方が食べられる形状に近いように作り変え提供する
【事例紹介】
A様96歳。2019年より入所される。入所当初はシルバカー歩行。ADLも一部介助にて可能なレベルであった。
年々、年齢と共に食事量の低下、体重減少、ADLの低下がみられ、2023年11月27日に嘔吐し、誤嚥性肺炎にてIC(インフォームド・コンセント)を実施し、ご家族は施設での看取りを希望される。
発症後は絶飲食で点滴のみの対応をしていたが、状態は徐々に回復し、2023年12月22日より点滴を行いながら、1日1食、少量から食事再開の指示があり「いろどり食」が提供となる。
日中の覚醒状態を確認し、15時頃が一番状態が良かった為、言語聴覚士に評価して頂き、食事を提供。最初のメニューは重湯やだし汁からスタートし、徐々に野菜ペーストや健康スープと増やしていった。少しづつ摂取量も増えた頃、ご家族より「もっと食べれる量が増やせないか」と相談があり、医師を含めた多職種で話し合い、2024年1月より2回食(朝・昼)に変更。2024年3月に点滴終了し、3回食に増やした。
特別メニューとして、抹茶ミキサー粥とアイスクリームを提供。
思い出レシピの提供をしたいと考え、ご家族に相談すると、「にゅう麺とからあげが好きだった」と教えて頂き、管理栄養士が食べやすい形状に作り変え提供する。口から食べれることを続けた6月、食事に意欲も出てきており、ご本人より「焼き芋が食べたい」と話され、嚥下や咀嚼の状態も安定しており、希望を叶える為、さつまいもをこしてペーストし、焼き芋のような形に見立て提供する。提供時間に合わせ面会に来て頂き、食事をされている様子をご覧になられ、食べれることへの安堵と感謝の言葉を頂ける。
【考察】
「いろどり食」導入後、ご本人から「美味しい」という言葉を頂くことが増え、スタッフもご利用者の笑顔や喜び・食事に対する意欲を感じることで、口から食べる大切さ、その人らしいケアがいかに必要であるか気づき、摂取量や栄養だけに注目するのではなく、その日の状態、食事の様子、好きな食材など細かく観察するようになった。
A様は絶飲食の状態から徐々に回復し、少しづつ食事を食べ続け、現在も3食、いろどり食を召し合っている。食事を口から食べることによって、その方の生きる喜びにつながっているように感じる。また、この取り組みを通してご家族と話す機会が増え、より親密な関係性になれたと思われる。
【まとめ】
いろどり食の提供を通して、看取り介護を選択された方お一人おひとりの「口から食べる」を大切にし、多職種で協力してメニュー開発を進め、「美味しい」と思って頂ける食事の提供が実現できた。
人生の最終章を尊重と共感をもち、寄り添って、今後もご本人、ご家族、スタッフ全てが満足できる看取りケアを目指したいと考える。