講演情報

[14-P-L002-03]非常勤の言語聴覚士としての経験~運動性失語1症例の経過~

*阿部 真也1、宮崎 梨沙1、上遠野 寛1、村岡 香織2、今村 健太郎3、木川 泰宏1 (1. 埼玉県 介護老人保健施設いるまの里、2. 国立病院機構埼玉病院、3. 和光リハビリテーション病院)
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失語症を有する症例に対し、常勤の言語聴覚士の不在期間中に通所リハビリテーションで非常勤の2名の言語聴覚士が連携を取りながら言語訓練を実施した。その結果、失語症は重度から中等度に改善した。言語聴覚士が不在な場合でも複数の非常勤の言語聴覚士が連携を取り回復期から切れ目のないリハビリテーションを継続することで、言語機能の改善に繋がることが考えられた。
【はじめに】失語症のリハビリテーション(リハビリ)は急性期、回復期での訓練にとどまらず、生活期の支援が重要であるが、十分な支援が受けられないことが課題となっている。介護老人保健施設(老健)においても、言語聴覚士が在籍しておらず、失語症を有する利用者が言語訓練を受けられないことも少なくない。また、言語聴覚士が在籍している場合でも様々な事情により長期にわたり不在になることもある。今回、老健に勤務する言語聴覚士が産前産後休業と育児休業による不在期間中に通所リハビリの利用を開始した失語症を有する利用者に対し、非常勤の2名の言語聴覚士が言語訓練を実施する機会を得たため報告する。【対象】<症例>発症時48歳、男性、右利き、要介護1<疾患>脳梗塞<既往歴>高血圧、糖尿病<現病歴>X年○月○日に意識障害と右上下肢麻痺が出現した。左中大脳動脈に閉塞を認め、血栓回収術を施行するが、再開通はみられなかった。38病日に回復期リハビリ病院に転院した後、180病日で自宅退院し、185病日に当施設の通所リハビリの利用を開始した。通所リハビリは週2回、同世代の失語症を有する利用者がいる曜日とした。【方法】症例に対し言語訓練を毎週実施できるように1週間に1日勤務(月に4日勤務)の言語聴覚士と2週間に1日勤務(月に2日勤務)の言語聴覚士の2名が勤務日を調整した。短期集中リハビリ実施期間中は週1~2回40分、それ以降は週1回20分の個別訓練を継続して実施した。また、リハビリの情報はカルテに詳細に記載し、情報の共有を行った。【結果】<利用開始時評価>言語機能は標準失語症検査(SLTA)で重度の運動性失語が認められた。「聴く」と「読む」は短文の理解は比較的良好であったが、複雑な文の理解では障害がみられた(単語の理解:10/10、短文の理解:7/10、口頭命令に従う:0/10、仮名の理解:4/10、漢字・単語の理解:10/10、仮名・単語の理解:9/10、短文の理解:7/10、書字命令に従う:1/10)。「話す」は呼称、復唱、音読で障害がみられた(呼称:1/20、単語の復唱:4/10、動作説明:0/10、まんがの説明:段階1、文の復唱:0/5、語の列挙:0語、漢字・単語の音読:0/5、仮名1文字の音読:0/10、仮名・単語の音読:0/5、短文の音読:0/5)。「書く」は漢字の書字と書取は良好であったが、仮名は障害がみられた(漢字・単語の書字:5/5、仮名・単語の書字:0/5、まんがの説明:段階1、仮名1文字の書取:0/10、漢字・単語の書取:4/5、仮名・単語の書取:0/5、短文の書取:0/5)。「計算」は加算から障害がみられた(計算:2/20)。認知機能はレーヴン色彩マトリックス検査(RCPM)が29/36点で明らかな低下はみられなかった。通所リハビリでの生活場面では発語はなく、他の利用者との関わりは少なかった。<1年6カ月後評価>言語機能はSLTAで全ての言語モダリティーで改善がみられ、失語症は重度から中等度となった。「聴く」と「読む」は若干改善がみられたが、複雑な文の理解は変わらなかった(単語の理解:10/10、短文の理解:9/10、口頭命令に従う:1/10、仮名の理解:5/10、漢字・単語の理解:10/10、仮名・単語の理解:10/10、短文の理解:9/10、書字命令に従う:2/10)。「話す」は呼称、復唱、音読で改善がみられた(呼称:12/20、単語の復唱:9/10、動作説明:4/10、まんがの説明:段階2、文の復唱:1/5、語の列挙:3語、漢字・単語の音読:5/5、仮名1文字の音読:4/10、仮名・単語の音読:5/5、短文の音読:0/5)。「書く」は若干改善がみられたが、仮名の書字と書取は変わらなかった(漢字・単語の書字:5/5、仮名・単語の書字:1/5、まんがの説明:段階1、仮名1文字の書取:4/10、漢字・単語の書取:5/5、仮名・単語の書取:1/5、短文の書取:0/5)。「計算」は加算と減算の正答は増えたが、乗算と除算は1桁から障害がみられた(計算:8/20)。認知機能はRCPMが33/36点で若干改善がみられた。通所リハビリでの生活場面は単語の発話によって意思の伝達が可能なことが増え、他の利用者との関わりが多くなり、コミュニケーション意欲が向上した印象を受けた。【考察】失語症は回復期を過ぎても年単位で回復していくことが報告されている。特に若年者の場合は回復が顕著であり、脳卒中治療ガイドライン(2021)でも失語症に対して言語訓練を行うことが勧められている。本症例は個別の言語聴覚療法で言語機能そのものの改善と、その改善をフィードバックすることでコミュニケーション意欲を高めることができたと考えられた。また、常勤の言語聴覚士が不在な場合でも複数の非常勤の言語聴覚士が連携を取り回復期から切れ目のないリハビリを継続することで、言語機能の改善に繋がったと考えられた。失語症デイサービスでは失語症を有する利用者は仲間作りが重要であり、仲間と交流を促進することでコミュニケーション能力を改善することが期待されると報告されている。失語症に特化していない通所リハビリでも同世代の失語症を有する利用者がいる曜日を利用することで仲間づくりの一助となり、コミュニケーション意欲を高めることができたと考えられた。また、日中の通いの場の中心となっている通所リハビリの生活場面に即した言語訓練を実施することでより実用的なコミュニケーションの拡大が得られたと考えられた。