講演情報
[14-P-L002-08]重度片麻痺と高次脳機能障害を呈した症例~在宅復帰までの支援~
*成田 沙和美1 (1. 青森県 介護老人保健施設はくじゅ)
60歳代女性。市営住宅2階に夫と2人暮らし。方向性は未定。近位部の低緊張に加え重度の感覚障害と高次脳機能障害の影響により、基本動作全般に介助を要していた。当初の予後予測では、階段昇降が軽介助で行えるかどうか困難であり方向性の検討が必要であると考えられたが、身体機能や高次脳機能障害の改善に加え、リハビリテーションに意欲的であったこと、夫の介護力もあったことにより在宅復帰が可能となったと考えらえる。
【始めに】今回、左視床出血により重度片麻痺、高次脳機能障害を呈した症例を担当し、方向性の決定に難渋したため以下に報告する。
【症例紹介】60歳代女性。介護度3。夫との二人暮らし(市営住宅2階で夫は仕事あり) 病前ADLは自立し専業主婦。
<入所時ADL>麻痺:重度 高次脳機能障害:失語、失行、注意障害、脱抑制 意識レベル:2 感覚障害:重度鈍麻 HDS-R:12点 ADL:BI35点 TMT-A、B:不可 基本動作:軽度~中等度介助 歩行:長下肢装具使用し中等度介助
<退所時ADL>麻痺:中等度 高次脳機能障害:失語、注意障害は軽度残存 意識レベル:清明 感覚障害:軽度鈍麻 HDS-R:23点 ADL:BI80点 TMT-A:150秒 B:319秒 基本動作:自立 歩行:短下肢装具と4点杖を使用し見守り 階段昇降:手すりを使用し軽介助 床上動作:軽介助
【経過】本症例は介入当初より「自宅で生活したい」と希望しておりリハに意欲的であった。しかし、家族としては重度障害のため方向性は未定で、家屋状況から階段昇降が行えるレベルになる事が必須だった。入所当初はリハビリ以外での離床に拒否を示し、日によってトイレでの排泄に執着し数分おきに排泄希望の訴えが続く時もあった。失語による錯語、保続があり自分の訴えがうまく伝わらずあきらめる様子や、聞き手の推測も必要で、他利用者との関りもほとんど無かった。さらに、近位部の低緊張に加え重度の感覚障害により起居動作などでは麻痺側上下肢の管理が困難な事に加え、注意障害や失行による動作手順のエラーの影響により、基本動作全般に介助を要する状態であった。高次脳機能障害による影響が未知数であったが発症から間もない状態であったこともあり、在宅復帰も見据えつつ短期集中リハビリテーション加算を週に5回実施しその内の1回は言語訓練とした。臥位や座位姿勢で感覚入力を行いながら、腹部周辺の筋収縮を促し低緊張の改善と身体の連結が図れることに重点を置きつつ、動作手順の定着を図るために、同じ口頭指示、介助方法となるようにフロアスタッフとも連携して起居動作などの介入を行った。入所後1ヶ月で短下肢装具へカットダウンし起立や立位場面の中で動的バランスの改善や移乗動作等の手順の定着を図っていった。2ヶ月で4点杖使用し歩行が軽介助レベルで可能となり、入所時に比べ排尿感覚も伸び、失禁も減少した。しかし、環境変化による動作手順のエラーは残存。3ヶ月でトイレ動作見守りレベルとなり動作手順のエラーも軽減した。随意性や感覚障害の改善も認められ、立位での麻痺側膝折れも見られず注意障害(特に分配性)も改善傾向であった。4ヶ月で階段昇降軽介助レベルで可能。新しい動作に関しては動作手順の定着に時間がかかるものの、口頭指示で修正が可能になった。錯語はあるが保続は軽減し、他利用者との交流も見られるようになった。5ヶ月で車椅子でのADL(入浴以外)自立し、症例、家族ともに軽介助で階段昇降が可能となったことがきっかけとなり方向性が自宅へ決まった。6ヶ月で退所前訪問を実施し福祉用具や介護サービスの提案を行い、自宅で必要になると思われる床上動作訓練を追加した。その後、9ヶ月で自宅退所となり退所後に3ヶ月の期間で自施設からの訪問リハビリテーションを実施し、退所後の自宅生活のフォローを行った。
【考察】身体機能面の問題として、重度の片麻痺と近位部の低緊張や感覚障害、高次脳機能障害により動作全般に介助を要する状態であった。古澤は「上部体幹では分節運動が特に上肢の運動に伴って必要で、下部体幹では、上部体幹を支えたり下肢の運動を保証するために持続した同時収縮が固定として求められる」と述べている。そこで、この腹部の低緊張の改善と身体の連結が図れることに重点をおいて介入したことにより、早期の身体機能面の改善が図られたと考えられる。また、鈴木らは「注意は全ての認知機能の基礎であり、注意の構造として、持続性注意を獲得することが選択性・転導性の段階へと移行できる」と述べている。一つの動作に集中、持続的に行った結果、持続した集中力を獲得し、さらに周囲への配慮や必要な情報を選択する能力を獲得しトイレでの排泄の執着の軽減、移乗動作やトイレ動作の手順定着に繋がったと考えられる。さらに、身体機能面の能力向上と高次脳機能障害やADL能力の改善により、BIやHDS-Rの向上が認められたと考えらえる。
【まとめ】当初の予後予測では、重度の片麻痺と高次脳機能障害により階段昇降が軽介助で行えるかどうか困難であり、方向性の検討が必要であると考えられたが、身体機能や高次脳機能障害の改善に加え、リハビリテーションに意欲的であったこと、夫の介護力もあったことにより在宅復帰が可能となった。自宅退所後の訪問リハによるフォローも含め、今後もより良い在宅復帰を支援できるように関わっていきたい。
【症例紹介】60歳代女性。介護度3。夫との二人暮らし(市営住宅2階で夫は仕事あり) 病前ADLは自立し専業主婦。
<入所時ADL>麻痺:重度 高次脳機能障害:失語、失行、注意障害、脱抑制 意識レベル:2 感覚障害:重度鈍麻 HDS-R:12点 ADL:BI35点 TMT-A、B:不可 基本動作:軽度~中等度介助 歩行:長下肢装具使用し中等度介助
<退所時ADL>麻痺:中等度 高次脳機能障害:失語、注意障害は軽度残存 意識レベル:清明 感覚障害:軽度鈍麻 HDS-R:23点 ADL:BI80点 TMT-A:150秒 B:319秒 基本動作:自立 歩行:短下肢装具と4点杖を使用し見守り 階段昇降:手すりを使用し軽介助 床上動作:軽介助
【経過】本症例は介入当初より「自宅で生活したい」と希望しておりリハに意欲的であった。しかし、家族としては重度障害のため方向性は未定で、家屋状況から階段昇降が行えるレベルになる事が必須だった。入所当初はリハビリ以外での離床に拒否を示し、日によってトイレでの排泄に執着し数分おきに排泄希望の訴えが続く時もあった。失語による錯語、保続があり自分の訴えがうまく伝わらずあきらめる様子や、聞き手の推測も必要で、他利用者との関りもほとんど無かった。さらに、近位部の低緊張に加え重度の感覚障害により起居動作などでは麻痺側上下肢の管理が困難な事に加え、注意障害や失行による動作手順のエラーの影響により、基本動作全般に介助を要する状態であった。高次脳機能障害による影響が未知数であったが発症から間もない状態であったこともあり、在宅復帰も見据えつつ短期集中リハビリテーション加算を週に5回実施しその内の1回は言語訓練とした。臥位や座位姿勢で感覚入力を行いながら、腹部周辺の筋収縮を促し低緊張の改善と身体の連結が図れることに重点を置きつつ、動作手順の定着を図るために、同じ口頭指示、介助方法となるようにフロアスタッフとも連携して起居動作などの介入を行った。入所後1ヶ月で短下肢装具へカットダウンし起立や立位場面の中で動的バランスの改善や移乗動作等の手順の定着を図っていった。2ヶ月で4点杖使用し歩行が軽介助レベルで可能となり、入所時に比べ排尿感覚も伸び、失禁も減少した。しかし、環境変化による動作手順のエラーは残存。3ヶ月でトイレ動作見守りレベルとなり動作手順のエラーも軽減した。随意性や感覚障害の改善も認められ、立位での麻痺側膝折れも見られず注意障害(特に分配性)も改善傾向であった。4ヶ月で階段昇降軽介助レベルで可能。新しい動作に関しては動作手順の定着に時間がかかるものの、口頭指示で修正が可能になった。錯語はあるが保続は軽減し、他利用者との交流も見られるようになった。5ヶ月で車椅子でのADL(入浴以外)自立し、症例、家族ともに軽介助で階段昇降が可能となったことがきっかけとなり方向性が自宅へ決まった。6ヶ月で退所前訪問を実施し福祉用具や介護サービスの提案を行い、自宅で必要になると思われる床上動作訓練を追加した。その後、9ヶ月で自宅退所となり退所後に3ヶ月の期間で自施設からの訪問リハビリテーションを実施し、退所後の自宅生活のフォローを行った。
【考察】身体機能面の問題として、重度の片麻痺と近位部の低緊張や感覚障害、高次脳機能障害により動作全般に介助を要する状態であった。古澤は「上部体幹では分節運動が特に上肢の運動に伴って必要で、下部体幹では、上部体幹を支えたり下肢の運動を保証するために持続した同時収縮が固定として求められる」と述べている。そこで、この腹部の低緊張の改善と身体の連結が図れることに重点をおいて介入したことにより、早期の身体機能面の改善が図られたと考えられる。また、鈴木らは「注意は全ての認知機能の基礎であり、注意の構造として、持続性注意を獲得することが選択性・転導性の段階へと移行できる」と述べている。一つの動作に集中、持続的に行った結果、持続した集中力を獲得し、さらに周囲への配慮や必要な情報を選択する能力を獲得しトイレでの排泄の執着の軽減、移乗動作やトイレ動作の手順定着に繋がったと考えられる。さらに、身体機能面の能力向上と高次脳機能障害やADL能力の改善により、BIやHDS-Rの向上が認められたと考えらえる。
【まとめ】当初の予後予測では、重度の片麻痺と高次脳機能障害により階段昇降が軽介助で行えるかどうか困難であり、方向性の検討が必要であると考えられたが、身体機能や高次脳機能障害の改善に加え、リハビリテーションに意欲的であったこと、夫の介護力もあったことにより在宅復帰が可能となった。自宅退所後の訪問リハによるフォローも含め、今後もより良い在宅復帰を支援できるように関わっていきたい。