講演情報

[28-O-J008-06]食育ポップがもたらす健康意識と食行動の変化

千葉県 青木 純華, 三木 亜矢子 (館山ケアセンター夢くらぶ)
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【はじめに】
 館山ケアセンター夢くらぶは、千葉県館山市に位置する超強化型の老人保健施設である。当施設の栄養室では、「職員の健康意識を高めて、元気に働ける職場づくりをすること」を目標の1つとして掲げている。そこで、職員の健康増進に貢献すべく、職場での食育啓発活動およびアンケート調査を実施した。
【目的】
 職員が自身の食生活や健康管理について考えるきっかけを作り、知識や意識の向上、さらには行動変容へ繋げることを目指し、継続的な取り組みを通して職員が健康に働き続けられる身体づくりに貢献することを目的とした。また、健康に課題を抱える職員が一定数存在することから、実行しやすい方法を示すことで、そうした職員の健康意識の向上にも繋げていきたいと考えた。
【対象】
 当施設に勤務する20~70代の男女職員を対象とした(介入前95名、介入後91名)。対象者は介護職、看護職、リハビリ職、支援・相談職、事務職のいずれかに従事している。
【方法】
 2025年3月~6月の4か月間、職場の食環境を活用し、卓上ポップやポスターを使った簡易的な食育介入を実施した。具体的な介入の方法は、「エネルギー摂取量の目安」や「減塩の工夫」、「野菜摂取のポイント」、「清涼飲料水に含まれる糖」、「コンビニ食品の選び方」などをテーマにした掲示物を職員食堂や休憩スペースに設置し、2週間ごとに内容を更新して情報提供を行った。また、エネルギー調整が必要な人向けに、主食を計量できるよう炊飯器の隣に職員が自由に使えるキッチンスケールを設置した。
 介入の前後には同一内容のアンケートを実施し、「塩分摂取に関する意識」、「夜食習慣」、「朝食の内容」、「食事に対して気をつけていること」、「現在の食生活への意識」などを調査した。上記に加え、介入後のアンケートには食育介入による「意識や行動の変化」、「知りたい栄養・健康情報」が自由記述できる欄を設けた。
【結果】
 (1)介入前に「自分の食生活に問題がある」と感じていた職員は67.0%であり、そのうちの84.0%が「改善したい」と回答。女性は男性よりも問題意識が高い傾向にあった(女性76.7%、男性47.1%)。(2)「ポップを見た」職員は83.5%であり、そのうち63.7%が「食生活を改善しようと思った」、35.2%が「実際に食生活に変化があった」と回答し、一定の行動変容が確認された。(3)職員食の利用率は63.2%から65.9%へやや増加した。(4)朝食については、「主食・主菜・副菜の揃った朝食」を摂取する者の割合は減少し、ヨーグルトやスムージーのような簡単な朝食や欠食傾向が増加した。(5)夜食習慣について、「夜食を食べる習慣がある」と回答した職員は、介入前後で大きな変化は無かった。しかし「夜勤時のみ食べる」割合は減少し、「夜食を食べない」割合が増加した。夜食の内容は介入前後ともパンやおにぎり、カップ麺などの主食単体が多かった。(6)砂糖入り飲料の摂取状況に大きな変化はなく、介入前後ともにスポーツドリンクや炭酸飲料が多く挙げられた。(7)塩分摂取に関しては、「ラーメンやうどんなどの汁を半分以上飲む」、「漬物や梅干しをほぼ毎日食べる」といった行動に減少が見られた一方、「外食やコンビニ弁当、惣菜を利用する頻度」や「スナック菓子を食べる頻度」、「カップ麺を食べる頻度」など簡便な食事を選ぶ行動は増加傾向にあった。
【考察】
 ポップによる情報提供は、職員の意識や行動にある程度の影響を与えたものと考えられる。特に「ポップを見た→改善しようと思った→実際に変化があった」という流れが確認されたことは、職員の行動変容のきっかけとして有効であったと考える。
 行動変容が見られなかった点は、砂糖入り飲料の摂取状況と、朝食の内容および欠食傾向が挙げられる。特にスポーツドリンクの摂取頻度の増加や朝食としてのスムージーやヨーグルトといった簡便なメニューの増加については、季節的要因の影響も考えられるが、嗜好品の習慣的な摂取に対する行動変容は情報提供だけでは不十分であり、介入方法に工夫が必要であると感じる。同様に「手軽に摂れる朝食」や「食欲がない時の工夫」などについても、簡単で具体的なレシピ紹介など、実践しやすいように働きかけることが必要と考える。
 塩分摂取に関して、日常生活の中で比較的実践しやすい行動には改善が見られたが、「外食やコンビニ弁当、惣菜を利用する頻度」や「スナック菓子やカップ麺の摂取頻度」が増加傾向にあったのは、簡便性を重視する傾向が強まった可能性があり、現代の食環境における課題でもある。
 夜食の摂取状況については、夜食の内容がパンやおにぎり、カップ麺など主食単体が中心であったため、バランスの取れた夜食の具体例を示すことでさらなる改善が期待できる。
 また、キッチンスケールの設置は「ご飯の量を計測するようになった」、「食べ過ぎを防いでいる」といった声が聞かれ、体験を伴う介入が関心を引き、行動に結びつけやすいことが明らかとなった。 
 以上のことから、生活の中で視界に入りやすい掲示物での情報提供は、職員にとっても受入れやすい手段と言える。しかし行動変容は短期間では表れにくいこともあり、4ヶ月間の介入では変化が明確に表れなかった可能性がある。
 今後の課題としては、職員のニーズや生活習慣を把握し、体格や既往歴、活動量に応じた情報提供に加え、性別や年齢による意識の違いにも配慮したアプローチをすることで、さらに効果的な支援が可能であると考える。また、行動の定着には長期的で継続的な取り組みが必要であり、給食業者と連携した健康メニューの導入など、施設全体での健康支援も視野に入れていきたい。
 食事は、自ら実践できる身近な健康管理の1つであり、元気に働き続けるための基盤となる。今後も継続的な支援を通し、職員の健康を支えることでよりよい職場づくりを目指したい。