講演情報
[28-O-J008-07]嚥下障害がある中で嗜好面に寄り添った栄養管理の事例
鳥取県 ○原田 芽生 (介護老人保健施設仁風荘)
【はじめに】
嚥下障害を生じると、食事の噛みにくさや飲み込みにくさが生じることで食事自体が負担となり喫食量の低下に繋がる事例や、喫食可能な食形態が限られることで好きなものが食べられずストレスの増加や食事意欲の低下に繋がる事例が多くみられる。以上のような背景から嚥下障害は栄養状態の低下を引き起こしやすく、また栄養状態が悪くなることでリハビリの効果も得にくくなってしまうという悪循環に陥りやすい状態であるといえる。今回はその嚥下障害という限られた食形態しか摂食できない状態の中でも、補助食品を用いて嗜好に寄り添った栄養ケアを行い、栄養状態の悪化抑制・嚥下機能の向上に至ったケースについての報告を行う。
【方法】
液体状のもの以外は摂取が困難な状態の対象者に対し、液体状でも違和感のない食事の選択や補助食品の加工など行い提供する。入所期間中の食形態や身体状態の経過を随時記録し、入所時と退所時での評価を比較する。
【対象者紹介】
70歳代男性 アテローム血栓性脳梗塞、左片麻痺、半側無視 失語がある
【介入経過】
回復期リハビリテーション病棟より入所された対象者は、経口摂取自体は可能であるものの液体状のもの以外は摂取が困難な状態であった。入所時の体重は60.1kg(BMI23.5)、Alb値は3.7g/dl、低栄養リスクは低であった。
1)入所初期
入所当初は病棟での食事内容を引き継ぎ、補助食品である高栄養のジュースを1日に6本と副菜をミキサーにかけたミキサー食(嚥下調整コード1j)を提供していた。提供エネルギー量は1650kcal、たんぱく質量は75g。ミキサー食の提供に対しては顔をしかめたり背けたりとあまり好まれない様子がみられていた。副菜ではなく味噌汁をミキサーにかけとろみ剤を添加したもの(以下とろみ汁)に変更したところ受け入れよく、喫食ペースがスムーズになった。また同時期にリハビリスタッフよりフロア全体へ機能改善のための運動プログラムが周知され、食前の舌の突出と回旋運動が習慣となった。食事中も咀嚼嚥下を促すためもぐもぐ、ごっくんの声かけを行うよう周知され、多職種による継続的なリハビリが開始となった。
2)入所中期
とろみ汁はたんぱく質含有量が少なく、また高栄養のジュースにも飽きが見られ始めたことで摂取量が低下し、全体的なたんぱく質の補給量が著しく低下した。入所後1ヵ月時点でのAlb値は4.1g/dlであったが、さらに3ヵ月経過した時点では3.5g/dlまで低下がみられた。そこで喫食量の安定しているとろみ汁にプロテインパウダーの添加を開始することでたんぱく質の補給を図り、栄養状態の経過を追うこととした。
また高栄養のジュース以外にも使用できる補助食品がないか検討を行った。アイス形態であれば比較的液体状に近いと考え、高栄養のゼリーを溶かしてアイス状に成型したものの提供を開始した。アイス形態は非常に受け入れがよく、口腔内で溶かして液体状になることから対象者にとっても飲み込みやすい様子がうかがえた。この頃から食事意欲の向上も見られ始め、フォークを使用してアイスを自力で摂取しようとされる様子や「美味しい」「冷たい」といった発語も徐々に増えてきた。プロテインパウダーと高栄養のアイスの提供を開始してから4ヵ月経過した時点でAlb値は4.1g/dlとなっており栄養状態にも改善が見られた。
3)入所後期
本人の意欲向上に伴い、「粥が食べたい」「肉や魚が食べたい」等の希望も聞かれるようになった。ST評価のもとゼリー粥(嚥下調整コード2-2)の提供や、ムース状のソフト食(嚥下調整コード2-2)への置き換えなどを実施し、段階的な食形態のアップを行った。食前のリハビリも継続的に実施できており徐々に咀嚼嚥下機能にも改善が見られた。特に口腔内のため込みが目立たくなり食事量を増やしてもスムーズに喫食することが可能となった。最終的に補助食品の使用量は高栄養ジュースを1日に2本のみにまで減らすことができ、食事を中心に栄養を補給することが可能となった。提供エネルギー量は1400kcal、たんぱく質量は60.5g。
退所時の体重は50.5kg(BMI19.7)、Alb値4.1g/dl、低栄養リスクは中であった。体重の減少は見られたものの栄養状態の悪化は抑制。また食形態が向上したことで退所先の幅も広がり、入所中の食形態を保ったまま次の施設へと移動することができた。
【考察】
先行研究において温度の低い液体ほど嚥下反射を誘発しやすいという結果もあり、アイス形態の提供は温度や形状による嚥下に与える効果、また、固形物を摂取できているようにも感じられることから、意欲向上に繋がり、非常に有効であったと考える。対象者の嗜好面に焦点を当てることで、補助食品を本人の希望に沿う形で取り入れ、飽きによる食思低下や、喫食量の低下を防ぎ、栄養状態悪化抑制となった。
また入所初期からフロア全体へ食前の運動や食事中の声のかけ方も周知されており、様々なスタッフが長期的に関わることもできていた。多様な職種が関わることでリハビリが習慣化し、また迅速な食事内容の変更も可能となり口腔嚥下機能や意欲の向上に繋がったと考えられる。
【おわりに】
本事例では、嚥下障害がある中でもより食事らしい食事を食べるという、対象者の嗜好や食事への思いを尊重した栄養ケアを継続することで、結果として必要な栄養量を安定して確保することができたといえる。また食形態の柔軟な調整や嚥下機能の向上に至った背景には、多職種の連携と情報共有が常に行われていたことが寄与していた。今後は栄養状態の指標の見直しも行い、前向きな食環境の整備を目指して他の症例でも応用していくことが期待される。
【参考文献】
谷口裕重,青柳陽一郎:食道内刺激によって嚥下運動を誘発する新たな手法~食道刺激温度の検討~
日本顎口腔機能学会雑誌 26巻1号 p.24-25 2019
嚥下障害を生じると、食事の噛みにくさや飲み込みにくさが生じることで食事自体が負担となり喫食量の低下に繋がる事例や、喫食可能な食形態が限られることで好きなものが食べられずストレスの増加や食事意欲の低下に繋がる事例が多くみられる。以上のような背景から嚥下障害は栄養状態の低下を引き起こしやすく、また栄養状態が悪くなることでリハビリの効果も得にくくなってしまうという悪循環に陥りやすい状態であるといえる。今回はその嚥下障害という限られた食形態しか摂食できない状態の中でも、補助食品を用いて嗜好に寄り添った栄養ケアを行い、栄養状態の悪化抑制・嚥下機能の向上に至ったケースについての報告を行う。
【方法】
液体状のもの以外は摂取が困難な状態の対象者に対し、液体状でも違和感のない食事の選択や補助食品の加工など行い提供する。入所期間中の食形態や身体状態の経過を随時記録し、入所時と退所時での評価を比較する。
【対象者紹介】
70歳代男性 アテローム血栓性脳梗塞、左片麻痺、半側無視 失語がある
【介入経過】
回復期リハビリテーション病棟より入所された対象者は、経口摂取自体は可能であるものの液体状のもの以外は摂取が困難な状態であった。入所時の体重は60.1kg(BMI23.5)、Alb値は3.7g/dl、低栄養リスクは低であった。
1)入所初期
入所当初は病棟での食事内容を引き継ぎ、補助食品である高栄養のジュースを1日に6本と副菜をミキサーにかけたミキサー食(嚥下調整コード1j)を提供していた。提供エネルギー量は1650kcal、たんぱく質量は75g。ミキサー食の提供に対しては顔をしかめたり背けたりとあまり好まれない様子がみられていた。副菜ではなく味噌汁をミキサーにかけとろみ剤を添加したもの(以下とろみ汁)に変更したところ受け入れよく、喫食ペースがスムーズになった。また同時期にリハビリスタッフよりフロア全体へ機能改善のための運動プログラムが周知され、食前の舌の突出と回旋運動が習慣となった。食事中も咀嚼嚥下を促すためもぐもぐ、ごっくんの声かけを行うよう周知され、多職種による継続的なリハビリが開始となった。
2)入所中期
とろみ汁はたんぱく質含有量が少なく、また高栄養のジュースにも飽きが見られ始めたことで摂取量が低下し、全体的なたんぱく質の補給量が著しく低下した。入所後1ヵ月時点でのAlb値は4.1g/dlであったが、さらに3ヵ月経過した時点では3.5g/dlまで低下がみられた。そこで喫食量の安定しているとろみ汁にプロテインパウダーの添加を開始することでたんぱく質の補給を図り、栄養状態の経過を追うこととした。
また高栄養のジュース以外にも使用できる補助食品がないか検討を行った。アイス形態であれば比較的液体状に近いと考え、高栄養のゼリーを溶かしてアイス状に成型したものの提供を開始した。アイス形態は非常に受け入れがよく、口腔内で溶かして液体状になることから対象者にとっても飲み込みやすい様子がうかがえた。この頃から食事意欲の向上も見られ始め、フォークを使用してアイスを自力で摂取しようとされる様子や「美味しい」「冷たい」といった発語も徐々に増えてきた。プロテインパウダーと高栄養のアイスの提供を開始してから4ヵ月経過した時点でAlb値は4.1g/dlとなっており栄養状態にも改善が見られた。
3)入所後期
本人の意欲向上に伴い、「粥が食べたい」「肉や魚が食べたい」等の希望も聞かれるようになった。ST評価のもとゼリー粥(嚥下調整コード2-2)の提供や、ムース状のソフト食(嚥下調整コード2-2)への置き換えなどを実施し、段階的な食形態のアップを行った。食前のリハビリも継続的に実施できており徐々に咀嚼嚥下機能にも改善が見られた。特に口腔内のため込みが目立たくなり食事量を増やしてもスムーズに喫食することが可能となった。最終的に補助食品の使用量は高栄養ジュースを1日に2本のみにまで減らすことができ、食事を中心に栄養を補給することが可能となった。提供エネルギー量は1400kcal、たんぱく質量は60.5g。
退所時の体重は50.5kg(BMI19.7)、Alb値4.1g/dl、低栄養リスクは中であった。体重の減少は見られたものの栄養状態の悪化は抑制。また食形態が向上したことで退所先の幅も広がり、入所中の食形態を保ったまま次の施設へと移動することができた。
【考察】
先行研究において温度の低い液体ほど嚥下反射を誘発しやすいという結果もあり、アイス形態の提供は温度や形状による嚥下に与える効果、また、固形物を摂取できているようにも感じられることから、意欲向上に繋がり、非常に有効であったと考える。対象者の嗜好面に焦点を当てることで、補助食品を本人の希望に沿う形で取り入れ、飽きによる食思低下や、喫食量の低下を防ぎ、栄養状態悪化抑制となった。
また入所初期からフロア全体へ食前の運動や食事中の声のかけ方も周知されており、様々なスタッフが長期的に関わることもできていた。多様な職種が関わることでリハビリが習慣化し、また迅速な食事内容の変更も可能となり口腔嚥下機能や意欲の向上に繋がったと考えられる。
【おわりに】
本事例では、嚥下障害がある中でもより食事らしい食事を食べるという、対象者の嗜好や食事への思いを尊重した栄養ケアを継続することで、結果として必要な栄養量を安定して確保することができたといえる。また食形態の柔軟な調整や嚥下機能の向上に至った背景には、多職種の連携と情報共有が常に行われていたことが寄与していた。今後は栄養状態の指標の見直しも行い、前向きな食環境の整備を目指して他の症例でも応用していくことが期待される。
【参考文献】
谷口裕重,青柳陽一郎:食道内刺激によって嚥下運動を誘発する新たな手法~食道刺激温度の検討~
日本顎口腔機能学会雑誌 26巻1号 p.24-25 2019
