講演情報

[22-O-K002-06]『自分で選ぶ』が食事の楽しみにつながる―介護老人保健施設における選択メニューの効果―

*篠﨑 友紀 (静岡県 介護老人保健施設ヒューマンライフ富士)
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【はじめに】
当施設では以前より、利用者が夕食の主菜を選択できる「選択メニュー」を実施している。介護老人保健施設における食事は、栄養管理や治療の一環であるとともに、利用者にとって大きな楽しみの一つである。また、施設生活では自己決定の機会が限られることから、食事場面における選択の機会は重要な意味を持つと考えられる。しかし、選択メニューが利用者に与える影響について十分な検証は行われていなかった。そこで今回、選択メニュー実施時の利用者の反応や喫食状況等を調査し、食事に対する意欲や自己決定支援への効果について検討した。
【方法】
対象はムース食や流動食といった既製品の食事提供以外の当施設入所者180名とした。調査期間は令和7年12月から令和8年5月までの6か月間とし、選択メニューは月1回実施した。利用者自身が2種類のメニューから1つを選択する方法とし、意思表示が困難な利用者については、家族や日頃の嗜好状況を参考に選択を支援した。メニューは、肉料理と魚料理、または麺料理とした。作業工程の都合上、月末火曜日の夕食時に指定した提供方法とした。利用者への聞き取りは管理栄養士が行い、発注数確定のため事前選択方式とした。
評価は、選択時の利用者の反応、喫食率、食事終了時間、職員アンケート、管理栄養士および利用者への聞き取りとした。
【結果】
(1)選択時の利用者の反応
メニューをイメージしやすいように写真を見せながら聞き取りを行ったことで、多くの利用者が写真を見て悩みながら積極的に選択する様子がみられた。同席者同士でどちらのメニューを選んだのか話し合う様子も見られた。認知症の診断があっても意思表示のできる利用者には写真を見せ返答しやすい質問方法に変えながら聞き取りを行うことで選ぶことができた。
(2)喫食率の変化
喫食率は残食量を目視評価し、全量摂取を100%として算出した。同一週の選択メニュー非実施日の夕食と比較したところ、6回中6回すべてにおいて、選択メニュー実施日の喫食率は通常食を上回った。
(3)食事終了時間の変化
一部利用者では食事終了時間の短縮が認められたが、全体として明確な傾向は認められなかった。
(4)職員アンケート(99名回答/回収率92.5%)
「利用者の楽しみにつながっている」93%、「自己決定の機会につながっている」91%、「食事への関心を高めるきっかけになっている」91%であった。また、「利用者とのコミュニケーションが増えた」「利用者自身が選ぶことで食事への関心や生活意欲の向上につながっている」についても、それぞれ73%が肯定的に回答した。自由記載では「利用者が選択メニューの話をしていて楽しみにしている様子がわかる」「利用者が喜ぶ姿を見るとうれしい」などの意見がみられた。
(5)管理栄養士の反応
聞き取りを重ねることで利用者一人ひとりの嗜好や性格の把握につながった。会話の機会も増加した。
(6)利用者からの聞き取り
「どちらにしようか考えるのが楽しい」といった発言が聞かれた。「次はこのメニューが食べたい」とリクエストがくることもあり、食事への期待感の高まりがうかがえた。
【考察】
利用者からは「選ぶことが楽しい」「次回が楽しみ」といった発言が聞かれ、選択する過程そのものが楽しみとなっていた。また、選択メニュー実施日の喫食率は全6回で通常食を上回り、食事への関心や意欲の向上につながった可能性が示唆された。職員アンケートでも利用者の楽しみや食事への関心、自己決定の機会につながっているとの評価が多く、選択メニューは単なる献立サービスではなく、自己決定支援や満足度向上に寄与する取り組みと考えられた。さらに、利用者同士や職員とのコミュニケーション促進を通じてQOL向上の可能性も示唆された。一方、食事終了時間については明確な変化は確認できなかった。食事時間には身体機能や認知機能、介助量など複数の要因が影響するため、選択メニュー単独の効果を評価することは難しいと考えられた。また、発注締切の都合上、選択から提供までに時間を要することや、当日の盛り付け作業が増加するなど運営上の課題もみられた。今後は、献立のより分かりやすい掲示や、管理栄養士からフロア職員への情報共有を増やすことで利用者への周知を強化し、選択する楽しみを継続できる環境づくりに取り組むとともに、厨房業務の負担軽減や作業工程の改善について検討していく必要がある。
【結論】
選択メニューは、利用者の自己決定支援と食事への関心向上に有効な取り組みである可能性が示された。今後も運営上の課題を改善しながら、利用者のQOL向上を目指した食事提供に取り組んでいきたい。