講演情報

[74]握力遅延量は2型糖尿病患者のペットボトル開栓困難に関与する可能性:予備研究

*藤沢 千春1,2,3、岩本 正博2 (1. 四国医療専門学校 理学療法学科、2. 岩本内科医院 糖尿病内科、3. 高知健康科学大学 スポーツ健康科学部門)

キーワード:

ペットボトル開栓、握力、糖尿病

【はじめに・目的】
骨格筋はインスリン依存性グルコース処理の約80%を担う主要な組織であり、筋力低下はHbA1c悪化やインスリン必要量の増加と密接に関連する。また、T2DM患者は健常者より筋力・筋量減少リスクが高くなる。ペットボトルの開閉可否は簡便な筋力低下やサルコペニアのスクリーニング指標として有用であるが、その主要な要因やT2DM患者での検討は不足している。本研究はT2DM高齢患者を対象に、ペットボトル開閉と体組成・筋力・身体活動量などとの関連を検討した。
【方法】
2026年1月〜5月に当院糖尿病内科を受診したT2DM患者のうち、AWGS2025基準以下、または全身・下肢筋量の低下を認めた65歳以上の52例を対象とした。測定項目は握力、膝伸展筋力、骨格筋量、四肢骨格筋量、体脂肪量、身体活動量、転倒歴、HbA1cや細小血管合併症などとした。筋力指標は身長二乗で除した体格補正握力と握力遅延値を算出した。握力遅延値は1・2回目の測定値の差分の割合として定義した。遅延の正負はそれぞれ始動遅延(1回目<2回目)と早期低下(1回目>2回目)を示すが、両者を方向性によらず統合することで、筋出力再現性の破綻を運動制御エラーの総量として定量化した。男性全例が開封可能であったため性差の交絡を考慮し、全体解析(n=52)に加えて女性の解析(可能群14例、不可能群18例)を独立して実施した。群間比較にはMann-Whitney U検定を用い、有意差が認められた指標についてROC曲線分析を行い、カットオフ値を算出した。
【結果】
全体解析では、年齢・BMI・体脂肪量に群間差はなかった。骨格筋量および部位別筋肉量は不可能群で有意に低値であり、体格補正握力、膝伸展筋力、身体活動量においても有意な低下が認められた。女性では、骨格筋量の有意差がすべて消失し、女性においては筋量の絶対的減少が開封困難の直接的要因ではない可能性が示された。一方、体格補正握力、体格補正膝伸展筋力、身体活動量の有意差は維持された。握力遅延値は不可能群で有意に大きく、ROC曲線分析ではAUC=0.722、カットオフ値5.41%において感度66.7%・特異度92.9%を示した。
【考察】
全体解析の結果、ペットボトル開封の可否には全身の部位別筋量および上下肢の絶対的な最大筋力が連動していることが示された。しかし、女性に限定した解析では、筋量に関する有意差がすべて消失するという対照的な様相が確認された。女性における開封困難の背景には、上下肢の絶対的な筋力低下に加え、握力の運動制御エラー量の増大が強く関与している可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき、香川県医師会の倫理委員会の承認を得て行い、オプトアウトを実施し、全て匿名化したデータで検討を行った。