講演情報

[22]末梢神経損傷後の異常感覚に対する電気刺激の有効性
‐尺骨神経損傷および橈骨神経麻痺を合併した前腕骨折の一症例‐

*前田 翼1、正木 琴音1、塩田 伸也1、谷 栄了1、高井 一志1 (1. 三豊総合病院 リハビリテーション部)

キーワード:

末梢神経損傷、電気刺激療法、神経障害性疼痛

【はじめに・目的】
末梢神経損傷後の神経障害性疼痛や異常感覚は慢性化しやすく,リハビリの阻害因子となる.TENSは非侵襲的な疼痛管理法として有効性が報告されているが,刺激部位による効果差は十分検討されていない.特に創部や固定具の影響で患側刺激が困難な症例では,対側刺激が代替手段として期待される.しかし,対側刺激の有効性を神経損傷例で検討した報告は少なく,臨床的判断に迷う場面も多い.今回,尺骨神経損傷と橈骨神経麻痺を合併した前腕骨折症例に対し,神経解剖学的に複数部位へ電気刺激を行い,症状変化を検討した.
【症例紹介】
30代男性.交通事故により右尺骨粉砕開放骨折および橈骨頭剥離骨折を受傷し創外固定術を施行.右尺骨神経損傷(連続性保持)と高位橈骨神経麻痺を合併していた.尺骨神経支配領域に強い異常感覚(VAS 8.5)と夜間痛を認め,睡眠障害と患肢使用の制限を呈していた.
【倫理的配慮】
本人に説明し,発表に関する同意を得た.
【経過】
Y+47日より干渉波治療器で電気刺激を開始.刺激周波数1Hz,強度は不快感のない最大とした.刺激部位は①患側前腕,②対側上腕,③対側前腕の3条件とし週ごとに変更した.評価は夜間・訓練前後のVASとした.薬物療法としてY+5日にプレガバリン75mgを開始し,Y+55日に300mg/日まで増量したが,その後は変更なく経過した.
【結果】 VASは経時的に改善し,Y+83~89日には夜間,訓練前,訓練後のVASはいずれも0.2まで軽減した.Y+90~96日に電気刺激を休止すると夜間5.5,訓練前6.5,訓練後4.2まで増悪したが,Y+97日より再開するとY+104日には各VASは0.75まで再改善し,Y+106日に退院した.患側・対側いずれの刺激でも改善を認め,部位による明確な差は認められなかった.
【考察】
本症例では薬物療法の影響や神経損傷後の自然回復を完全に除外することはできない.しかし,プレガバリンの投与量変更がない期間に症状の改善・増悪を認めたこと,さらに電気刺激休止期間中に症状増悪を示し,再開後に改善した経過から,電気刺激療法が症状軽減に寄与した可能性が示唆された.また,患側前腕のみならず対側上腕および対側前腕への刺激でも改善を認め,刺激部位による明確な差は認められなかった.このことから,障害部位のみならず,後根神経節・後角より上位の関与が考えられた.特に1Hz刺激は内因性オピオイド系を介した下行性疼痛抑制系を活性化することが報告されており,本症例でも同様の機序が関与したと推察される.さらに,神経損傷後の疼痛や異常感覚には中枢性感作が関与することが知られており,本症例の経過は電気刺激療法がその調節に寄与したことも考えられた.以上より,創部や固定具の影響により患側への刺激が困難な症例においても,対側刺激は有効な選択肢となり得ることが示唆された.