講演情報

[54]小脳性運動失調例に対するメトリクスフォームを用いた立位バランス練習の即時および継続効果

*岡田 倭人1、木原 幸太1、瓦谷 拓也1 (1. 伊予病院 リハビリテーション部)

キーワード:

メトリクスフォーム、小脳性運動失調、姿勢制御

【はじめに,目的】
メトリクスフォーム(以下,MF)は高反発EVA素材を用いたトレーニング用マットであり、足底・足趾への感覚入力を高めることで姿勢制御を促し、体幹深層筋の賦活を特徴とする。本症例は小脳性運動失調により独歩自立していたが、静止立位時の著明な姿勢動揺により立位作業の継続が困難で、就労復帰の阻害要因となっていた。そこでMFを使用したところ、立位バランスの即時効果および継続的改善を認めたため報告する。
【方法】
対象は30歳代男性、左聴神経鞘腫に対し減圧目的の脳腫瘍摘出術(外側後頭下開頭術)が施行。術後に聴力低下および左失調の増悪を認め、術後35病日に当院回復期病棟へ転院。術後MRIでは左小脳半球から小脳橋角部にかけて高信号域を認めた。初期評価SIAS:74 点(下肢5-5-5)、SARA:6点、BBS:51点、MiniBESTest:24点、FAC:4点。本症例に対し、MFを用いた立位バランス練習を実施。練習内容は、MF上での立位、足踏み、体幹回旋、踵あげの4課題を各30秒実施し、2セット行った。まず、MF練習による立位バランスの即時的変化を検討するため、訓練実施前後で足圧中心の変化を測定した。練習前測定後にMF練習を行い、その後に再測定した。次に、練習の継続効果を検証するため、AB型シングルケースデザインを実施。A期(非介入期)、B期(介入期)はそれぞれ7日間とした。A期では通常の理学療法のみを実施し、B期では通常の理学療法に加えてMFを用いた立位バランス練習を実施した。足圧分布測定システムを使用して足圧中心の測定。測定項目は矩形面積(m㎡)および総軌跡長(mm)とし、測定時間は20秒とした。各測定は開眼静止立位、閉眼静止立位にて実施し、測定間には5分間の休憩を設けた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例には口頭および文書にて説明し同意を得た。本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2026-9)。
【結果】
即時効果では、矩形面積は開眼82.2→54.93 、閉眼131.95→90.65 mm²へ減少し、総軌跡長も開眼145.4→124.0 、閉眼361.1→306.5 mmへ短縮。継続介入後も同様に改善を認め、特に閉眼条件での顕著な減少を示した。臨床指標ではBBS 51→54点、Mini-BESTest 24→27点。
【考察】
本症例では、MF練習により開眼・閉眼の双方で立位バランスの改善を認めた。不安定面での運動は体性感覚入力の変動を増大させ、感覚統合への適応と重み付けを強化すると考えられる。特に閉眼での改善は、視覚依存の低減と体性感覚・前庭感覚の活用向上を示唆する。一方、開眼でも改善を認めたことから、多感覚統合能力の向上が示唆される。さらに、小脳性運動失調に対し、不安定環境下での反復練習が誤差修正を促し、姿勢制御の精度向上に寄与したと考えられる。