講演情報

[1Sagano_Hall02-02-01]テクノロジーによる教育ではなく教育のためのテクノロジーを

*佐倉 統1 (1. 実践女子大学/理化学研究所革新知能統合研究センター)
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キーワード:

テクノロジー

略歴
実践女子大学 人間社会学部 教授。東京大学 大学院情報学環 プロジェクト教授。理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP)チームリーダー。

専門は、科学技術社会論(STS)、科学コミュニケーション、認知科学。科学と社会の関係、科学知の伝達・共有の仕組み、人工知能などの先端科学技術の社会的インパクトなど、学際的な観点から幅広く研究を展開している。

東京大学理学部生物学科卒業、同大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)。NHK解説委員を経て、東京大学大学院情報学環教授を歴任。著書に『科学的とはどういう意味か』(中公新書)、『現代思想としての環境問題』(NHKブックス)、『進化論という考え方』(講談社現代新書)などがある。

科学の公共的理解を深める活動にも力を入れており、メディア出演や一般向け講演、政策提言なども積極的に行っている。現在は、科学技術と社会との橋渡し役として、大学・研究機関・社会をつなぐ取り組みに尽力している。

受講者に求められる 事前の知識・経験等
なし

受講者が受講前に取り組む 事前課題等
なし
概要
人工知能、とくに生成AIが教育にどのような影響をあたえるのか、功罪両面についての議論がさかんにおこなわれている。しかし AIに限らずどのような萌芽的技術であっても、教育そのものの目的が変わらないのであれば、重要な課題はその目的を実現するためにそれらの新しい技術をどのように使うかである。私は、公教育の目的は、自由で平等で安定した社会を構築するための人材を養成することであり、その点はこれからも同じであろうと思う。生成 AIを情報検索や思考の支援などに使えば、教育の効率は良くなると思う。
 社会は新しい技術から影響を受けるが、技術もまた社会からの影響により変わっていく。ひとつの例は、携帯電話デバイスにカメラの機能が付けられたことで、この機能は一般人の利用方法にヒントを得て実現したものである。このようなプロセスを「技術の社会的構築 social shaping of technology: SST」と呼ぶ。通常この SSTは非意図的に進むプロセスだが、教育現場においては、教育の目的をより効率良く達成するために方向付けられたSST のプロセスがありうるのではなかろうか。
 もうひとつの可能性として検討すべきことは、AIなどの出現により教育の目的を変える必要があるかどうか、である。これについては専門家の意見を待ちたいが、ひとりの社会人として、変える必要はない、むしろ変えるべきではないと考える。個々人の人権が守られ、自由で平等で安定した社会が私の理想であるし、この点については世界的に普遍的な価値観であってほしいと思っているし、今後も不変であってほしいと思う。ただし、現行の教育の実態がそこの目的に合致しているかどうかは、さらにまた別の問題である。
 人々がインターネットや AI と共存、共生する社会は、必ず実現するだろう。すでにそのような社会になりつつあるとも言える。AIとの共存は所与の前提条件として、それらの技術をなんのために、どのように使うのかが、教育においてこれからより重要な目的になるだろう。