講演情報

[PS-05]高いSESを有する日本の移民第2世代の出身国言語と文化資本の獲得及び保持方法を探る

*Ksenia Zolotareva Zolotareva1 (1. 東京大学教育学科博士課程)
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キーワード:

移民第2世代、出身国言語の獲得と維持、エスニック・コミュニティ、文化資本の継承と親の教育戦略、デジタルツールの役割、私的な場と公的な場

要旨
比較的高い社会経済的地位(SES)を有する日本の移民第2世代を対象に、出身国の言語を含む文化資本の獲得と維持の過程におけるエスニック・コミュニティへの所属、親の教育戦略、およびSNSなどデジタルの使用による影響を明らかにしたものである。

調査方法・対象者・理論的枠組み
対象は両親ともに日本人でない20代後半から40代前半の移民第2世代31名で、日本の教育機関に属した経験を持ち、平均年収600万円以上の比較的高いSESを有する者である。本研究では、継承語保持の実態を①エスニック・コミュニティへの所属、②親の教育戦略、③SNS等のデジタル活用の3点から検討した。
分析枠組みとして、社会を複数の「フィールド(場)」と捉え、各フィールド内で人々が経済的・文化的・象徴的資本を用いて地位を競い合う構造を示したBourdieuの理論、及び学習者が言語に「投資」するのは、それによって象徴的または物質的な資源を得て、社会的地位や将来の可能性を高められると信じている時であると提唱しBonny Nortonのインベストメント理論を活用する。

結果
対象者はいずれも日本の教育機関に通った経験があり、日本の文化資本を獲得してきた一方で、言語を含む出身国の文化資本の獲得については、以下3つの観点で分析した。

①エスニック・コミュニティにほぼ所属せず
エスニック・コミュニティに関し、文化継承や心理的支援、経済的機会の提供などの機能が指摘される一方、高学歴の移民は多様なネットワークを築き、良好な統合を実現する傾向が指摘をされている。本研究でも約5割が親世代含め所属なし、3割が親は所属していたが本人はなし、2割が距離を置いて所属していると回答した。
②親の教育戦略は①出身国の文化資本を積極的に継承する、②出身国と国際的文化資本の双方を獲得させる、③国際的文化資本のみに重点を置く、④文化資本の継承自体を行わない、の4類型に分類される。言語を含む出身国の文化資本継承が精力的になされた場合でも、日本社会を生きる子どもにとって心理的負荷となり、大人になってから継承語回避につながる事例もあった。
③物理的・心理的に出身国やエスニック・コミュニティと距離をとり、継承語の本を定期的に読む人は31人中5人であった。一方で、SNSなどデジタルの活用に関しては、6割は継承語での動画やSNSを定期的に閲覧していた。

結論
出身国の文化資本継承が限定的な場合や、継承語の活用に心理的ハードルが発生するものであったとしても、SNSなどデジタルを通じて自発的に出身国とつながり、出身国の文化を享受することのハードルは比較的低い。このようなエスニック・キャピタルの再構築は現時点では本研究の対象である移民第2世代においては私的な場で行われることが多いが、より公的な教育の場に発展する余地も十分にある。今後の日本における移民を含む複数の文化をもつ人々に対する教育実践におけるデジタルの果たす役割の重視性が示唆される。