講演情報

[PS-06]生成AIによる授業動画英語化の実践と課題

*佐々木 良造1、*徐 乃馨1、*比留間 洋一1 (1. 静岡大学)

キーワード:

生成AI、英語吹替、オンデマンド講義動画、大学の国際化、教材設計

受講者に求められる 事前の知識・経験等
なし

受講者が受講前に取り組む 事前課題等
なし

概要
本発表では、静岡大学が進める国際的な教育プログラムの一環として取り組んだ、既存の授業動画音声の英語化の実践について報告する。
 取り組みの出発点は、コロナ禍の間に蓄積された日本語のオンデマンド授業動画を、英語で学ぶ授業の資源として使い回せないか、という問題意識であった。英語で受講できる授業の拡充や講義コンテンツの対外発信は本学でも継続的な課題となっており、既存資産の再利用はその流れに応じた選択肢に見えた。本実践は、再利用の可能性を確認する一方、英語で講義を受けることそのものを問い直す契機にもなった。
 作業の流れは次のとおりである。もとの動画(日本語)から音声を抽出して書き起こしを行い、それを英訳したうえで英語の読み上げ音声を生成し、元の映像に同期させた。この一連の処理はスクリプトで自動化したが、音声とスライドのタイミングがずれた箇所は手作業で補正している。技術的には既存動画の英語化が可能であることは確認できた。ただしそれと講義コンテンツとして使えることの間には、予想以上の距離があった。最も処理が複雑だったのは英訳の尺合わせである。内容の正確さを保ちつつ、発話時間やスライドの表示時間に収まる長さに英文を整える必要があり、直訳では意味が通らない箇所も少なくなかった。もっとも、講義担当教員と英語化担当教員(専門は日本語教育)が一言一句確認しながら英訳を進めるのは現実的ではない。そこで英訳は一括して生成AIで行い、その後に講義担当教員の確認を仰ぐ手順を採った。
 作業を通して見えた課題は三つある。まず、日本語音声の文字起こしを教員が逐一確認する負担が想定よりはるかに重い。次に、カーボンニュートラルのように動きの速い分野では、動画完成の時点ですでに記述が古くなり始めており、短期間での修正が求められる。そして、公開を前提とする場合には著作権処理がボトルネックとなる。学内利用なら問題にならなかった資料も扱いを一から見直す必要があり、動画制作とは別種の労力を要する。
 既存動画の英語化は技術的には可能でも、時間・費用・確認作業を合わせて考えると、必ずしも効率が良いとは言えない。講義動画の作成当初から公開や英語化を前提として教材を設計しておくほうが、結果として処理が円滑に進むこともある。
 もっとも、この取組の収穫は英語版動画そのものではない。「誰のための英語授業か」「どの部分を英語で提供すれば専門と英語の学習に効果的か」という、本来まず問うべき問いに立ち戻れたことの意義が大きい。受講者や科目によっては、授業全体を英語化するよりも、日本語の対面授業を軸に英語の復習動画を組み合わせたり、事前学習と対面を役割分担させたりするほうが高い学習効果が期待できる。英語授業を開講する議論の前に、誰が受け、どの形式で行われ、公開するならどこまでを開くのか。こうした問いを切り分けずに検討する姿勢が求められる。