講演情報

[O10-1]single cell RNA sequence による福山型筋ジストロフィーの大脳細胞移動異常の病態解明

池田(谷口) 真理子1, 小柳 三千代2, 青井 貴之2 (1.藤田医科大学病院 臨床遺伝科, 2.神戸大学 大学院 医学研究科 内科系講座 幹細胞医学分野)
福山型筋ジストロフィー(FCMD)は本邦特有の重篤な遺伝性難病である。原因遺伝子フクチンは、αジストログリカン(αDG)を標的とするO-マンノース型糖鎖を合成する希少糖転移酵素である。FCMDでは本酵素欠損により、基底膜と細胞膜を繋ぐ糖鎖構造が破綻し重度の筋ジストロフィーと細胞移動異常が示唆される大脳の形成異常、また網膜剥離・白内障などの眼症状を起こす。これらの症状を反映する病態で、胎生期に出現する脳奇形や中枢症状を評価する評価系は動物モデルでは再現されず、これまでその評価系は存在しない。そこでFCMD患者及び類縁疾患複数名より疾患由来iPSCsを樹立し、疾患iPSCsの分化誘導による中枢神経系の三次元培養による疾患モデル作成の試みを行ってきた。FCMD由来大脳オルガノイドでは細胞移動異常を示唆する脳表面の形態異常や層構造の異常が観察されたが、その詳細な機序は不明である。そこで我々は大脳オルガノイドの遺伝子発現をバルクの状態でのRNA sequencing と single cell RNA sequencing とで比較しその傾向を検討した。前者では細胞移動異常に関与するradial glial marker に著明な変化がみられなかったが、後者ではradial glial marker にクラスタリングされる遺伝子発現に健常と疾患群で遺伝子発現に有意な差がみられ、その病態の特徴が抽出された。single cell RNA sequencing による大脳オルガノイドは胎生期の大脳形成における病態を分子的にとらえる有効なツールであると考えらえた。