講演情報

[O10-4]熊本県における脊髄性筋萎縮症の新生児スクリーニングの経験

澤田 貴彰1,2, 小篠 史郎3, 吉田 真一郎4, 中村 公俊2 (1.熊本大学大学院 生命科学研究部 附属エコチル調査南九州・沖縄ユニットセンター, 2.熊本大学大学院 生命科学研究部 小児科学講座, 3.熊本大学病院 小児科, 4.KMバイオロジクス株式会社)
脊髄性筋萎縮症(SMA)は筋力低下や筋萎縮が進行性におこる国の指定難病の一つである。SMN遺伝子の異常のため、SMN蛋白が十分に作られず、脊髄前角細胞が変性や消失することで発症する。重症例では人工呼吸器が必要となり、治療を行わない場合、多くは2歳までに死亡する。近年、アンチセンス核酸医薬や遺伝子治療薬などの飛躍的に進歩した治療法が承認され、SMAの治療の選択肢が増えた。しかし、その効果は治療を行った時期が早ければ早いほど高いことが分かっている。つまり、最大限の治療効果を得るためには、症状の発症前にSMAの患者を見つけて治療することが望まれる。わが国でも、兄弟例で症状の発現前に診断し、遺伝子治療が行われ、高い治療効果が得られた例はある。しかし家族歴がない場合の早期診断は非常に困難である。そこで我々は家族歴の有無に関わらず患者を早期発見するために、SMAの新生児スクリーニング(NBS)を行った。SMAの原因となるSMN遺伝子異常のほとんどは,SMN1遺伝子の欠失でおこる。乾燥ろ紙血(DBS)から、そのSMN1遺伝子欠失を定量PCR法で判定し、SMAの可能性がある児を発見する方法が確立されている。我々は保護者の同意を得て、熊本県と熊本市が行っているNBSの検査し終えたDBSを用いて、2021年2月からSMAのNBSを行っている。2022年3月時点で、約15,000人が検査を受け、1人がスクリーニング陽性と判定された。その1人に対してMLPA法によるSMN遺伝子解析を行いSMAと診断した。早期診断により、症状の発症前に遺伝子治療を行うことが出来、1歳現在独歩可能で、正常な運動発達を遂げている。わが国においてもSMAのNBSの有用性が示された。一方、今後より早期に発症するSMA患者が発見される可能性があり、より早期に診断と治療を行う体制を構築する必要があることが認識された。