講演情報

[O11-5]小児期発症炎症性腸疾患におけるDNAメチル化によるSLCO2A1遺伝子の発現抑制の関与

伊藤 夏希1,2, 工藤 孝広1, 柏木 項介1, 徳島 香央里1, 時田 万英1, 新井 喜康1, 佐藤 真教1, 関口 玲子1, 宮田 恵理1, 北村 裕梨1, 幾瀬 圭1, 神保 圭佑1, 清水 俊明1, 江口 英孝2, 岡崎 康司2 (1.順天堂大学 小児科, 2.順天堂大学大学院医学研究科 難治性疾患診断・治療学/難治の診断と治療研究センター)
炎症性腸疾患(IBD)は遺伝的背景や環境要因、免疫系の変化、腸内細菌叢の異常などが複雑に相互作用し発症に至る。症例はIBDとしては非典型的な経過であったことから単一病的遺伝子によるIBD (monogenic IBD)を疑った姉妹例。妹は2歳時に血便と下痢を発症し、内視鏡検査で大腸に散在するびらんと、小腸に多発する潰瘍を認めた。姉は9歳時に周期的な腹痛と発熱を発症し、内視鏡検査で大腸は正常粘膜で、小腸に多発する潰瘍を認めた。全エクソーム解析により、病的バリアントSLCO2A1:c.940+1G>Aを姉妹に共通してヘテロで検出した。SLCO2A1はプロスタグランジン(PG)を細胞内に輸送する蛋白をコードし、その機能が低下するとPGの代謝が抑制され、シグナル伝達が増加し炎症が誘発される。SLCO2A1は非特異性多発性小腸潰瘍症の原因遺伝子であり、常染色体潜性遺伝形式をとる。本症例はヘテロで検出されており、局所におけるエピジェネティクな変化により、正常アレルが不活化される可能性を検討した。小腸と大腸の生検組織から抽出したDNAを用いて、SLCO2A1遺伝子のバイサルファイトシークエンスを行った。妹では小腸・大腸の炎症粘膜で完全なメチル化がおきていたが、姉の小腸の炎症粘膜では非完全な高度メチル化、大腸の正常粘膜では部分的なメチル化がおきていた。RNAとタンパク質発現解析を行ったところ、妹の小腸・大腸で最も発現が低下し、次いで姉の小腸が、大腸ではcontrol群よりやや発現が低下していた。尿中PG代謝産物の測定では、妹で著しい上昇を認めたが、姉では有意な上昇は認めなかった。SLCO2A1 の病的バリアントに加え、腸管局所でのDNAメチル化が加わり、腸管におけるSLCO2A1の発現が低下し、細胞内に取り込まれなかった高濃度のPGが炎症を惹起した可能性が考えられた。