講演情報

[O13-3]VPS13D遺伝子のミスセンスバリアントが同定された純粋型遺伝性痙性対麻痺の一家系

嶋崎 晴雄 (埼玉医科大学 保健医療学部)
遺伝性痙性対麻痺(Hereditary Spastic Paraplegia:HSP)は,上位運動ニューロンの変性による進行性の下肢の痙性を主症状とし,様々な神経症状を伴う遺伝性疾患である.症状が下肢の痙性のみであるものは,純粋型HSPと呼ばれる。今回、常染色体劣性遺伝性の純粋型痙性対麻痺の一家系の原因遺伝子変異検索を試みたので報告する。対象は,両親が血族婚で同胞発症者が存在する,常染色体劣性遺伝性の純粋型痙性対麻痺の1家系である.発端者は,診察時61歳の女性で,生下時からの成長発達に問題なく,42歳頃から歩行障害を認め,徐々に進行した.43歳時に近医で下肢の痙性を指摘された.46歳頃から杖歩行となった.発端者の姉は,40歳頃発症の痙性歩行を呈していた。同意を得て、この家系の発端者と類症発症の姉,健常の妹,健常の母4名の全エクソーム解析を行い,同定された一塩基多型を用いて連鎖解析を行った所,染色体1と10番のやや広い部分と,染色体2と11番の狭い部分に弱い連鎖する部位を同定した.発症者の全エクソーム解析では,染色体1番の候補遺伝子領域内に存在するVPS13D遺伝子 (NM_015378.3)の c.3353C>T, p.T1118Mというバリアントをホモ接合体で同定した.健常者は同バリアントをヘテロ接合体で有しており,家系内共分離が確認された.このバリアントは,公共データベースには登録のないものであった.また,既報の遺伝性痙性対麻痺遺伝子の病的バリアントは存在しなかった.3つの機能予測プログラムでは、このバリアントは病原性が予測されるとの結果であった.また,培養細胞に,野生型とp.T1118M変異を持つVPS13D蛋白を強制発現させ,蛍光顕微鏡で観察したところ,変異型は細胞質内にやや大きな凝集体を形成していた.以上から,この遺伝子変異は疾患の原因の可能性が高いと考えられた.