講演情報

[O15-2]オレキシン前駆体遺伝子の稀な変異と特発性過眠症との関連

宮川 卓1,2, 田中 進3, 嶋多 美穂子1,2,4, 酒井 紀彰5, 西野 精治5, 三島 和夫6, 徳永 勝士2,4, 本多 真1,7 (1.東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野睡眠プロジェクト, 2.東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学分野, 3.関西医科大学 解剖学講座, 4.国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト, 5.スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所, 6.秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座, 7.公益財団法人神経研究所小石川東京病院)
特発性過眠症は睡眠時間が病的に延長し、覚醒しても日中に強い眠気が持続する疾患である。典型例では総睡眠時間が11時間以上となり、日常生活に多大な支障をきたす。対症療法として使用される薬剤が効果を発揮しないことも多い。特発性過眠症はその原因が未解明な過眠症であり、感受性遺伝子も同定されていない。そこで我々は特発性過眠症の感受性遺伝子を同定すること目的として、稀な変異を対象とした解析を実施した。まず特発性過眠症患者のDNAサンプルを用いて、オレキシン前駆体及びその受容体遺伝子のエクソン領域を対象とした変異スクリーニングを行った。その結果、オレキシン前駆体遺伝子の切断部位に位置するアミノ酸置換を伴う変異(p.Lys68Arg; rs537376938)を複数の患者で検出した。そこで特発性過眠症患者598例及び健常者コントロール9826例で、本変異をタイピングした結果、特発性過眠症と有意な関連を示すことが判明した(アリル頻度:患者1.67%、コントロール0.32%;P=2.7×10 -8;オッズ比= 5.36)。変異陽性の特発性過眠症患者と陰性患者の臨床情報を比較した結果、未治療下でのJESS(眠気のスコア)が変異陽性患者で有意に高い等、重症度が高い傾向が観察された。ナルコレプシータイプ1患者514例及びタイプ2患者235例においても、本変異をタイピングしたが、有意な関連は認められなった。次に本変異が機能的な影響を有するか検討するために、変異体と野生型のオレキシン前駆体ペプチド断片を用いて、その切断酵素であるPC1/3及びPC2による切断活性を確認した。その結果、野生型に比べ、変異体の切断効率はPC1/3で2 %、PC2で0.1%にまで低下し、変異体の多くが切断されないことを明らかにした。さらに切断されなかったオレキシン前駆体の受容体結合活性をin vitroで検討した結果、薬理学的な活性が低いことも確かめた。これらの結果はオレキシン系の異常が特発性過眠症にも関わる初めての発見である。