講演情報

[O18-1]日本人難聴患者10,047名の遺伝的背景

宇佐美 真一 (信州大学 医学部 人工聴覚器学講座)
これまでの疫学研究で先天性難聴の原因として遺伝性難聴がもっとも多いことが示唆されてきたが、実際の遺伝子解析をもとにした疫学データはなかった。我々は従来から全国100を超える施設との共同研究を行い、日本人難聴患者に見出される数多くの難聴遺伝子バリアント(変異)について報告してきたが、今回同じ解析およびフィルタリング方法、同じ病原性判断基準を用い、日本人難聴患者10,047名を対象に63種類の難聴遺伝子の網羅的解析を行った。その結果38.8%の患者で原因遺伝子を同定できることを報告し、世界で初めて遺伝子解析に基づく大規模な疫学データを明らかにすることができたので報告する。日本人難聴患者の原因として、GJB2, CDH23, SLC26A4, STRC遺伝子などの比較的頻度が高い遺伝子のほか多くの稀な原因遺伝子が関与していることが明らかになった。また発症年齢別に見ると言語習得前(先天性から5歳)発症の難聴では約半数で、また遅発性難聴群(40歳未満で発症)でも約3割に原因遺伝子が同定された。難聴の重症度別では難聴の重症度が増すにつれ診断率が高くなった。また、発症年齢別、重症度別で異なる原因遺伝子が関与していることが明らかとなった。今回の大規模解析でそれぞれの原因遺伝子における発症年齢、進行度が明らかになり、難聴患者に対する経過観察、治療法の選択に重要な情報を得ることができた。現在この研究成果を保険収載されている難聴の遺伝学的検査にフィードバックする予定で準備を進めている。参考文献:Usami SI, Nishio SY. The genetic etiology of hearing loss in Japan revealed by the social health insurance based genetic testing of 10K patients. Hum Genet. 2022.