講演情報

[P10-4]RNAシーケンスから明らかになった7番染色体部分欠失を伴うSengers症候群の一症例

八塚 由紀子1,2, 木下 善仁3, 新田 和広1,2, 杉山 洋平4, 伏見 拓矢4,5, 大竹 明6,7, 村山 圭4,5, 岡崎 康司1,2,8 (1.順天堂大学大学院 医学研究科 難治性疾患診断・治療学, 2.順天堂大学 難病の診断と治療研究センター, 3.近畿大学 理工学部生命科学科 ゲノム科学研究室, 4.千葉県こども病院 代謝科, 5.千葉県こども病院 遺伝診療センター, 6.埼玉医科大学 小児科学・ゲノム医療学, 7.埼玉医科大学病院 難病センター, 8.理化学研究所 生命医科学研究センター 応用ゲノム解析技術研究チーム)
【背景】ミトコンドリア病は先天性代謝異常の中で最も頻度の高い疾患で、本疾患の発症には400個を超える核遺伝子とミトコンドリアDNAにコードされた遺伝子の両方が関わる。当施設では遺伝子診断の効率化を図るために、まずミトコンドリア病遺伝子パネルシーケンス(解析対象は核にコードされた原因遺伝子およびミトコンドリアDNA全周)、次いで、パネルシーケンスでは遺伝子診断が不十分であった症例についてRNAシーケンスや全ゲノムシーケンスを行っている。
【目的・方法】乳児ミトコンドリア病疑い症例でパネルシーケンスを行ったところ、AGK遺伝子にホモ接合型のナンセンスバリアント(NM_018238.4:c.409C>T:p.Arg137Ter)を同定した。高乳酸血症、白内障、肥大型心筋症などSengers症候群と考えて矛盾はなかったが、このバリアントは父親のみから遺伝していた。母親由来もしくはde novoの片アリル欠失が存在する可能性が示唆されたため、RNAシーケンスおよび全ゲノムシーケンスを施行した。
【結果】RNAシーケンスの結果から7番染色体のAGKを含む複数遺伝子の発現量に明らかな減少が認められた。また発現量減少遺伝子群に対応するゲノム領域について全ゲノムシーケンス結果を詳細に解析したところ、欠失両端が明らかになり、全長3.2Mbの欠失が判明した。
【考察】当施設で遺伝子診断を行った症例には原則として両親のサンガーシーケンスも実施される。常染色体潜性遺伝形式で発症する遺伝子にホモ接合型バリアントを認めたとしても、実際にホモ接合型である他にヘテロ接合型バリアントと片アリル欠失の組合せで発症するケースが存在することを意識する必要がある。またゲノム構造異常予測ツールが複数存在するものの全ゲノムシーケンス単独解析で見当をつけるのは未だ困難であり、RNAシーケンスによる遺伝子発現量解析との組合せが有用である。