講演情報

[P11-9]全ゲノム解析データを用いた構造多型解析により,診断的意義のある不均衡転座が示唆された患者例

外木 秀文1, 中村 明枝2, 朝比奈 直子2, 加藤 耕治3, 西尾 洋介3, 荻 朋男3 (1.天使病院 臨床遺伝センター, 2.北海道大学 医学部 小児科, 3.名古屋大学 環境医学研究所)
【患者情報】 患者は妊娠41週1日,3380 g,54 cm で出生.先天性疾患疑いで紹介受診.その後約2年間経過観察したところ.精神運動発達遅滞,多発奇形を認めた.G分染法染色体検査,14番染色体のUPD解析でいずれも異常を認めず.診断不明のままIRUDにゲノム解析を依頼した.2歳1か月時の所見は体格正常範囲(86.5 cm 11.4 kg)発達遅滞,筋緊張低下,長い四肢,長い指,色白の肌,毛髪は疎でプラチナ色,頭囲大きく前頭突出,薄い眉毛,軽度眼瞼下垂,軽度両眼開離,瞼裂斜下,突き出た上口唇,小さ目な耳介,キアリ奇形I,停止性水頭症,馬蹄腎,第3胸椎癒合があった.【ゲノム解析】全エキソーム解析では診断意義のある明確な遺伝子バリエーションが同定されず,全ゲノム解析を行った.データをもとに構造多型解析を行ったところ診断的意義のある構造多型を認めた.解析結果は:del 2q37.3-qter, GRCh37:2:238,145,614- ,dup 15q26.2-qter, GRCh37:15:95,144,727-.前者はClinGen Genome Dosage Mapにより確立されたcritical regionすなわち 2q37.3 terminal regionを完全に包含する欠失で,critical geneとされるHDAC4を含む.15q26.2に同定された重複は,15q過成長症候群として複数の報告がある.患者の症状はこの2つのゲノム異常によるものとして説明可能であった.この結果はアレイCGHで確認され,マルチカラーFISHでは不均衡転座der(2)t(2;15)(q27.3;q26.2)が示唆された.転座は母の均衡型転座に由来するものと考えられた.【考察】本例はGWASのもつポテンシャルを示したものであるが,2021年11月にマイクロアレイCGH検査が保険収載されたことで,未診断の多発先天異常症候群の患者を対象とした網羅的ゲノム検査の選択肢が増えた.今回の事例を考えると,その実施順序について1 染色体G分染法,2 マイクロアレイCGH,3 全エキソームスクリーニング,4 全ゲノムスクリーニングとするのが妥当と思われた.