講演情報

[P21-2]長女の診断を契機として遺伝カウンセリングを受診した「ヘテロ接合性HTRA1関連脳小血管病」の父子例

渡辺 夏未1, 澤井 摂1,2,4, 杉山 淳比古1,2, 森 雅裕2, 安田 真人2, 小野寺 理3, 上村 昌寛3, 関根 瑞香1, 宇津野 恵美1, 市川 智彦1,5 (1.千葉大学医学部附属病院 遺伝子診療部, 2.千葉大学医学部附属病院脳神経内科, 3.新潟大学脳研究所臨床神経科学部門神経内科学分野, 4.東邦大学医療センター佐倉病院脳神経内科, 5.千葉大学医学部附属病院泌尿器科)
[背景]禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)は、10~30代にかけて禿頭や変形性脊椎症を呈し、20~30代で脳卒中、認知機能障害、歩行障害を発症する疾患である。原因遺伝子はHTRA1遺伝子で、ホモ接合または複合ヘテロ接合の場合に疾患が引き起こされる。しかし近年、ヘテロ接合での発症が認められ、疾患概念が変わりつつある。今回、「ヘテロ接合性HTRA1関連脳小血管病」の父子例を経験したので、文献的検討を加え、遺伝カウンセリングの場での関わり方について考察する。[症例]発端者は30代前半の女性。10歳から禿頭があり、ご両親に症状がないこと、腰痛のエピソードもあることからCARASILが疑われた。遺伝学的検査では、HTRA1遺伝子にヘテロ接合で病的バリアント(R166L)を認めた。診断後すぐ、発端者の父に脳梗塞様症状が現れた。発端者の父は60代前半、右下肢のしびれから前医脳外科を受診。MRIでラクナ梗塞があり、精査目的で当院脳神経内科に紹介受診された。娘の診断から、娘同様の疾患が疑われ、精査目的に遺伝子診療部に紹介となった。遺伝学的検査では、娘と同じ病的バリアントを認めた。[考察]2021年までに、ヘテロ接合性HTRA1遺伝子バリアントは39スポットの報告があった。そのうち33例はmissense mutationsであり、大部分を占めた。missense mutationを有する症候性キャリアにおいて、変異型HTRA1蛋白質は、野生型HTRA1蛋白質の正常な活性化の喪失をもたらす、dominant-negative効果が引き起こされていると考えられている。しかし、「ヘテロ接合性HTRA1関連脳小血管病」は症例数が少ないため、浸透率や疾患の重症度は不明で、血縁者への影響に関しての情報提供は慎重に考えていくべき点である。また、「CARASILは常染色体潜性遺伝形式をとる」という認識は「常染色体顕性遺伝形式をとる場合もある」とアップデートすべき点で、遺伝カウンセリングの場での説明には留意する必要がある。