講演情報

[P27-19]ミトコンドリア病の出生前診断報告と着床前遺伝学的検査に向けた取り組み

佐藤 はづき1,2, 難波 聡1,2, 志食 絵理1, 鶴岡 恵1, 原嶋 宏子1, 上村 のぞみ1,2, 味原 さや香1,3, 武者 育麻1,3, 八塚 由紀子5, 岡﨑 康司5, 村山 圭6,7, 水野 洋介4, 沼倉 周彦1,3, 亀井 良政2, 大竹 明1,3 (1.埼玉医科大学病院 ゲノム医療科, 2.埼玉医科大学病院 産科婦人科, 3.埼玉医科大学病院小児科, 4.埼玉医科大学中央研究施設形態部門, 5.順天堂大学難治性疾患診断・治療学/難病の診断と治療研究センター, 6.千葉県こども病院代謝科, 7.千葉県こども病院遺伝診療センター)
【緒言】ミトコンドリア病は核DNA(nDNA)またはミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異で生じる先天代謝異常症で、特に乳児期発症では予後が悪く、根本治療法はない。ミトコンドリア病に対する当院での出生前診断のまとめを報告し、着床前遺伝学的検査(PGT)への課題について述べる。
【症例】2014年以降、重症ミトコンドリア病と診断された児を有する25家系38妊娠に対し遺伝カウンセリングを行い、希望された21家系30妊娠で出生前診断を行った。内訳は、nDNA変異29例、mtDNA変異1例で、絨毛21例、羊水8例、両者1例である。
【結果】nDNA異常29例中11例で家系内の発端者と同じ遺伝子変異を認めた。mtDNA変異家系の母は白血球、尿沈渣中の脱落細胞、共に変異遺伝子を認めず児での突然変異が疑われたが、性腺モザイクが否定できず絨毛検査を行った。胎児は出生後の確認検査でも変異mtDNAを認めず、2歳現在、正常発育である。
【考察】nDNA変異に対しては出生前診断を基本としてきたが、罹患児妊娠を繰り返す家系もあり、希望のある家族には今後PGTも選択肢として考えていきたい。mtDNA変異は母系遺伝に伴う母の心の問題、変異比率による閾値設定の困難さ、検査検体での変異比率が児の臓器内比率と異なる可能性等多くの問題点がある。提示症例は新生突然変異が疑われたが、出生前診断の決断までに2年以上を要した。母が変異遺伝子を有し、採取した検体において変異比率が0%でない場合は判断に難渋することが予想される。現在新たにmtDNA変異4家系に対し次子妊娠に向け出生前診断・PGTに関する遺伝カウンセリングを行い、このうち2家系にPGTの希望があり準備を進めている。
【結語】重症ミトコンドリア病は出生前診断、PGTの適応となる。今後増加が予想されるPGTを適切に行うために、各々の症例への丁寧な対応が求められる。