講演情報

[P29-2]わが国における遺伝性乳癌卵巣癌診療実態調査-1. 人的配置とBRCA1/2遺伝子検査実施状況

川田 莉佳1, 荒木 尚美1, 嶽石 あや2, 高田 史男1,2 (1.北里大学病院 遺伝診療部, 2.北里大学大学院 医療系研究科 臨床遺伝医学)
【背景】2018年以降、一部の乳癌・卵巣癌・膵癌・前立腺癌患者に対するコンパニオン診断としてBRCA1/2遺伝子検査が、2020年には乳癌または卵巣癌の既発症者に対するBRCA1/2遺伝子検査、陽性者に対するリスク低減乳房切除術・乳房再建術・リスク低減卵管卵巣摘出術・一部のサーベイランスが保険適応となった。保険適応前は遺伝診療部門が中心となっていた遺伝性乳癌卵巣癌(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)診療が保険適応拡大とともに各診療科における一般診療の一部となりつつある。
【目的】保険適応拡大前後の乳腺科と婦人科におけるHBOC診療の実態を把握することを目的とした。本発表においては遺伝専門職(臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー・遺伝看護専門看護師)の在籍、BRCA1/2遺伝子検査に関する報告を行う。
【方法】HBOCに関連する乳癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌の診療またはHBOC診療を実施する施設を含む全国の543施設を対象に無記名自記式アンケート調査を行った。調査期間は、2019年4月~3月および2020年4月~3月とし、2021年11月に質問紙を対象施設へ郵送した。
【結果】109施設から有効な回答を得られた(有効回答率は20.1%)。遺伝専門職が在籍している施設は、2019年度71施設(65.1%)、2020年度76施設(69.7%)であった。BRCA1/2遺伝子検査の出検数は、2019年度1,794件、2020年度5,669件であった。BRCA1/2陽性例は、2019年度221例(12.3%)、2020年度724例(12.8%)であった。陽性例のうち遺伝専門職へ紹介されたのは、2019年度137例(62.0%)、2020年度541例(74.7%)であった。一部の陽性例は「at risk者の不在」、「遺伝的リスクを知ることへの抵抗」、「身近な人からの反対」を理由に遺伝専門職への紹介を希望しなかった。
【考察】一般診療としてのHBOC診療の拡充に向け、施設内外の遺伝専門職との協力体制の強化と、医療従事者や一般市民に対する遺伝教育が必要である。