講演情報

[P30-10]小児期発症の両側性感音難聴の原因として ミトコンドリア遺伝子m.1555A>G 病的バリアントを認めた姉妹例

鹿嶋 見奈1, 宮崎 彩子1,2, 岡田 千穂1, 金城 ちなつ1, 宮田 海香子1, 澤井 英明1,3 (1.兵庫医科大学病院 遺伝子医療部, 2.兵庫医科大学 臨床検査医学, 3.兵庫医科大学 産科婦人科学)
【はじめに】先天性難聴あるいは小児期発症の難聴の60~70%に遺伝子が関与すると推測されており、難聴の原因として現在100遺伝子以上が同定されている。遺伝形式についても常染色体顕性遺伝、常染色体潜性遺伝、X連鎖性遺伝、ミトコンドリア遺伝など多様である。また遺伝子によっては、特定の薬剤により発症や進行を誘発するものもあり、遺伝学的検査により本人や血縁者の発症や進行の予防が期待できる。今回、アミノ配糖体抗菌薬により難聴の発症や進行が誘発されると明らかになっているミトコンドリア遺伝子m.1555G>Aバリアントを認めた姉妹例を経験したため報告する。
【症例】59歳女性と61歳女性の姉妹であり、両者ともに幼少期から高音部の両側性感音難聴を認めていた。現在、妹は両側性重度感音難聴で通常会話は困難、姉は両側高音漸減型感音難聴で通常会話は可能であるが、姉妹とも年々進行しており、精査目的で当部を紹介受診となった。初診時に姉妹とも保険収載されている先天性難聴の遺伝学的検査を受検され、両者ともm.1555A>Gバリアントを認めた。この結果を受け、遺伝カウンセリングではm.1555A>Gバリアントはアミノ配糖体抗菌薬により難聴の発症や進行が誘発されるため、使用は避けるべきであることを説明した。またミトコンドリアは母系遺伝するため、子や孫などat risk者も使用を避けることを推奨した。その際に妹は「私は抜歯時の抗菌薬使用後に難聴が急に進行したように思うので、家族には気をつけてもらいたい」と話された。
【考察】本症例のように特定の薬剤により発症や進行を誘発するものがあるため、特に遺伝子が関与している可能性の高い先天性難聴あるいは小児期発症の難聴患者に対しては、早期の遺伝学的検査による確定診断のメリットは大きいと考える。また聴力予後や随伴症状の予測、治療や遺伝形式などその他の有益な情報が得られる可能性もあり、遺伝学的検査の重要性を再認識した。