講演情報

[P30-12]難聴遺伝学的検査を段階的に進めるなかUsher症候群と診断された一例

黒田 真帆1, 二川 弘司1, 伊藤 志帆2, 山中 暖日1, 福田 憲太郎1, 吉富 愛3, 吉橋 博史1 (1.東京都立小児総合医療センター 遺伝診療部 臨床遺伝科, 2.東京都立小児総合医療センター 看護部, 3.東京都立小児総合医療センター 耳鼻いんこう科)
【背景】Usher症候群(USH:MIM#276901)は、感音難聴と網膜色素変性症を発症する常染色体潜性遺伝疾患である。多くの場合、難聴は先天性に存在し、眼症状は遅発性で徐々に進行する。視覚・聴覚の重複障害となるため家族の心理的負担は大きい。今回、難聴遺伝学的検査を進める過程で、非症候群性から一変して症候群性のUSHと診断された症例を報告する。【対象】4歳男児。新生児聴覚スクリーニング(AABR)にて両耳referとなり当院耳鼻咽喉科を受診。精密検査の結果、両耳中等度難聴と診断され補聴器装着開始。2歳時、遺伝学的検査のため遺伝カウンセリング目的にて当科受診。難聴以外の特記症状、先天性難聴の家族歴はなし。【結果】検査前遺伝カウンセリングにて両親から代諾を得たのち先天性難聴の1次難聴遺伝学的検査(保険適用)を実施。MYO15A遺伝子にヘテロ接合性バリアントのみを認め遺伝性難聴の可能性を伝えた。その後、2次難聴遺伝子解析(信州大学:難聴の遺伝子解析と臨床応用に関する共同研究)の結果、MYO15A遺伝子に新たなバリアントを認めず、USH2A遺伝子で複合ヘテロ接合性に病的バリアントが同定されUSHと確定診断。USHにおける進行性の随伴症状に対する眼科定期受診へと繋がった。両親では、聴力に加え「視力の予後」に対する将来不安や、疾患受容に難渋し心理的葛藤を抱く様子が見受けられた。【考察】本症例では遺伝子解析の対象範囲を段階的に広げる過程において診断内容を変更する必要があった。臨床検査から研究解析へと異なる解析手法で探索を進めるなか、家族にとって非症候群性から症候群性難聴に診断が変わるインパクトは大きかった。USHでは眼症状の発症前からの早期介入により、重複障害に伴う日常生活への備えが可能となる一方、重複障害を発症する可能性と向き合う両親の悲嘆や心理的負担は大きい。そのため、多職種連携による医療面・心理面双方からの継続的なトータルケアが重要である。