講演情報
[P7-1]Zellweger症候群を対象とする着床前遺伝学的検査(PGT)の妊娠報告
○水口 雄貴1, 末岡 浩2, 三須 久美子2, 佐藤 卓1, 田中 守1 (1.慶應義塾大学 医学部 産婦人科学教室, 2.慶應義塾大学病院 臨床遺伝学センター)
【背景】Zellweger症候群はペルオキシソーム形成異常症の最も重篤な病型であり, 先天的に多臓器に障害をきたし, 生命予後は1年以内で極めて予後不良である.今回, 着床前遺伝学的検査(PGT)の実施を経て妊娠に至った1例を経験したので報告する.【症例】クライエントは35歳女性,2妊1産.2回目の妊娠で発端者である第1子を出産している.第1子は出生後より呼吸障害, 極度の筋緊張低下と, 極長鎖脂肪酸の上昇が確認されたため, 遺伝子検査が実施された. PEX1遺伝子に複合ヘテロ接合性にバリアントを認め, 本疾患の診断が確定した.その後,夫婦の遺伝子検査が実施され,発端者のバリアントが両親由来であることが判明した.発端者は肝障害, けいれん部分発作等もあり, 人工呼吸器管理下で治療されたが生後8か月に死亡した.重篤な本疾患の再発の不安から, 次子妊娠でのPGTを希望し, 当院を紹介受診した.遺伝カウンセリングを経て, 熟慮の上, PGTを希望したため, 日本産科婦人科学会・慶應義塾大学医学部の両倫理委員会における承認を経てPGT実施に至った.7回の採卵により52個の卵子を採取し,IVF-ICSIを施行した.胚盤胞生検が可能だった胚11個からそれぞれ数個細胞を生検した.得られたDNAを全ゲノム増幅法により増幅し,増幅産物に対してバリアントの直接診断及び夫婦の一塩基多型から責任遺伝子を含むゲノム領域を確認する間接診断を併用し,5個の胚を正常胚(保因胚含む)と診断し得た.ホルモン調整周期において1回目の胚移植(1個)により,妊娠が成立した.妊娠15週に実施した羊水検査では非罹患児であることを確認し, 現在妊娠継続中である.【結語】我々の知る限り本邦において本疾患のPGT実施後妊娠報告は本症例が初めてである.稀少疾患をテーラーメイドに取り扱うPGTは医療者の熱意と労力を要するが,クライエントにとって妊娠を決意できる有用な手段と考えられる.