講演情報

[S19-2]Digenic inheritanceにより発症するゲノム不安定性疾患の分子病態 -内因性アルデヒドによるDNA損傷と転写障害-

荻 朋男 (名古屋大学 環境医学研究所 発生遺伝分野)
DNA損傷は突然変異や染色体異常を誘発し、ゲノムの不安定化や発がんリスクの増大につながる。ゲノムを安定に維持するには、DNA損傷応答修復 (DNA damage response: DDR)機構が必須である。DNA損傷のなかでも、ヒストンの脱メチル化や各種代謝中間体から発生するアルデヒド類によって生じる、DNA鎖間架橋 (interstrand crosslink: ICL)やDNA-蛋白質架橋 (DNA-protein crosslink: DPC)は、転写や複製を強く阻害するため有害度が高い。ICLやDPCの蓄積は、正確な遺伝子発現プロファイルの喪失、細胞周期の遅延、細胞死などを引き起こし、がんや老化を含む様々な疾病の一因になっていると考えられる。
 生体内で生じたアルデヒド類は、複数の脱水素酵素により、毒性の低いカルボン酸に酸化除去される。このうち、アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2 (ALDH2)には、飲酒後のアルコールフラッシング反応の原因となるドミナントネガティブ変異であるSNP rs671が知られている。2020年に、我々のグループなどから、ホルムアルデヒド脱水素酵素 (FDH/ADH5)の欠損と、ALDH2-rs671の二重変異 (digenic)により発症する新規疾患として、AMeD (再生不良性貧血、精神遅滞、小人症)症候群が報告された。AMeDS患者は、ICLやDPC修復経路の異常で発症するファンコニ貧血 (Fanconi anemia: FA)やRuijs-Aalfs 症候群 (RJALS)と類似した病態を示し、さらにrs671の変異アリル数が病態の重篤度を規定していた。これらのことから、ADH5とALDH2の機能喪失により、生体内で生じたアルデヒドの除去が不十分となり、増加したICLやDPCを除去するDNA修復機構が過負荷状態になることで、複製や転写障害が発生し、FAやRJALSと類似した病態が発症したと考えられた。
 本発表では、ICLやDPCが関与する転写障害に着目し、転写領域のDNA修復の分子機構やその破綻により発症する様々な疾患の分子病態について併せて報告する。