講演情報

[S19-3]グアニン四重鎖構造が関与する神経疾患の病態解明と創薬研究

塩田 倫史 (熊本大学 発生医学研究所 ゲノム神経学分野)
私達は DNA・RNA 高次構造に着目し、それらの脳機能における役割の解明を目指して研究を進めている。DNA は、右巻き二重らせんであることが Watson 博士と Crick 博士によって1953 年に発見された。この DNA の基本的な構造は「B 型 DNA」と呼ばれる。実は、一般的に知られているこの右巻き二重らせん構造以外にも、ヘアピン・左巻き・三重鎖・四重鎖など「非 B 型 DNA」と呼ばれる高次構造が存在する。また、これらは神経機能において重要な役割を担うことが示唆されている。非 B 型 DNA のひとつであるグアニン四重鎖 (G-quadruplex; G4) 構造は、グアニンが豊富な配列領域の一本鎖 DNA もしくは RNA で形成される。バイオインフォマティクス解析では、ヒトゲノム中の約 300,000 箇所で G4 構造の形成が予測されており、テロメア、遺伝子プロモーター、リボソーム DNA および組換えホットスポットに特に多く見られる。私達はこれまでに、 1) G4 構造が神経細胞内に豊富に形成され神経発達依存的にその形成が変化すること、 2) G4 構造の異常が認知機能障害を引き起こすこと、 3) 既承認医薬品の中から G4 構造に作用する安全性の高い薬剤を同定し、その薬剤により G4 構造結合タンパク質の遺伝子変異マウスと患者における認知機能低下が改善されること、 4) グアニンリッチ・リピート病では G4 構造がプリオノイドを促進すること、などを報告してきた。本講演では、これまでに私達が報告してきた神経疾患における G4 構造の細胞内機能についてまとめると共に、時間が許せば最近発見したある遺伝性神経発達障害とG4 構造の知見についてもご紹介したい。