Presentation Information
[T13-O-14]Identification of thick turbidite mud for paleo-earthquake study in the ocean
*Juichiro ASHI1, Masafumi MURAYAMA2, Ryo NAKANISHI3 (1. UTokyo, 2. Kochi University, 3. Kyoto University)
Keywords:
Turbidite,Nankai Trough,earthquake
熊野沖の付加体斜面と前弧海盆の間には海底谷と繋がらない孤立した海盆(ターミナル海盆,終端海盆)が分布する.このような地点から採取した試料中のタービダイトは洪水性を含まないため地震履歴の推定に有効である.タービダイトの堆積年代の推定は,タービダイト層直下の半遠洋性泥中の微化石年代がよく用いられる.しかし,タービダイト上部の泥質部分(タービダイト泥)と半遠洋性泥の境界の認定は容易でなく,これまでX線CT,帯磁率,元素濃度など非破壊計測でタービダイト泥の認定を目指してきた.本研究では,厚いタービダイト泥を伴う細粒タービダイトの存在を高密度の放射性炭素年代測定によって明らかにしたので報告する.
用いた試料は学術研究船「白鳳丸」KH-17-2次航海で採取したピストンコア試料PC06を中心に,ほぼ同一地点で採取された学術研究船「新青丸」KS-14-8次航海のPC03コア試料を補足的に用いた.分析項目はX線CT撮影,帯磁率測定,XRFコアスキャナ(ITRAX)を用いた元素濃度測定および浮遊性有孔虫と全有機炭素の放射性炭素年代測定である.試料は暗緑色のシルト質粘土中に薄い極細粒砂層を多数挟む.本研究で対象とした層準の浮遊性有孔虫の放射性炭素年代は約2万年前から5千年前の年代を示す.X線CT撮影のCT値,帯磁率および元素濃度の深度変化を見ると,やや粗粒層の下で泥質物質からなる変動の小さい層準があり半遠洋性泥と推定できる.これに対して,X線CTスキャンのCT値,帯磁率および元素濃度の値がほぼ一定,あるいは上位へ漸減または漸増を示す無構造の厚い泥層が3層認められた(下位より厚さ22 cm, 43 cm, 46 cm).これらの層の基底部にはいずれも極細粒砂層が存在する.極細粒砂層と無構造の厚い泥層を一組とした場合,上位および下位の泥層の浮遊性有孔虫の放射性炭素年代を調べた結果,大きな違いはなかった.すなわちイベント的な短時間の堆積を示しており,無構造の厚い泥層はタービダイト泥に相当すると考えられる.この無構造の厚い泥層には浮遊性有孔虫がほとんど含まれておらず年代測定が行えていないが,全有機炭素の放射性炭素年代を求めたところ,上下の層と大きく異ならない年代となった.採泥点の海盆は高まりによって孤立しており周囲の斜面からの堆積物供給しか受けない地点である.無構造の厚い泥層がタービダイト泥とすると,供給源は海底の表層部で,古い地層を巻き込むような地すべり起源ではないと解釈できる.無構造の厚い泥層に浮遊性有孔虫がほとんど含まれていないのは,高懸濁の泥(Fluid mud,例えば西田・伊藤,2009, 地質雑)の中で有孔虫殻が沈降して底部に濃集したためと考えられる.X線CT画像には縦方向に長い巣穴化石が多数認められることから,イベント的な厚い泥の堆積による底生生物の脱出孔の可能性がある.
この地点周辺では2004年紀伊半島南東沖地震の際に無人探査機による海底調査を行っており,海水の広範囲の懸濁に加え,海底付近には高懸濁層の存在を確認している(Ashi et al., 2014, EPS).また,表層試料の分析により厚さ約17 cmの泥がこの地震時に堆積したことを報告している(Okutsu et al., 2019, GSL Special Pub.).本研究は,海底表層物質の同様の地震による再移動が過去にも繰り返し発生していたことを示した.表層堆積物の移動・堆積は homogenitesとして日本海溝(McHugh et al., 2020, Marine Geology)などからも報告されている.イベント層が表層堆積物の再移動のみによるか,地すべりにより古い地層を巻き込むかは,地震の加速度やイベント発生前の堆積場の状況の指標となりうる可能性がある.
本研究は令和5年度原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施した.X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガー分析は高知大学海洋コア国際研究所の共同利用(17A048, 17B048, 24A012)により行った.
用いた試料は学術研究船「白鳳丸」KH-17-2次航海で採取したピストンコア試料PC06を中心に,ほぼ同一地点で採取された学術研究船「新青丸」KS-14-8次航海のPC03コア試料を補足的に用いた.分析項目はX線CT撮影,帯磁率測定,XRFコアスキャナ(ITRAX)を用いた元素濃度測定および浮遊性有孔虫と全有機炭素の放射性炭素年代測定である.試料は暗緑色のシルト質粘土中に薄い極細粒砂層を多数挟む.本研究で対象とした層準の浮遊性有孔虫の放射性炭素年代は約2万年前から5千年前の年代を示す.X線CT撮影のCT値,帯磁率および元素濃度の深度変化を見ると,やや粗粒層の下で泥質物質からなる変動の小さい層準があり半遠洋性泥と推定できる.これに対して,X線CTスキャンのCT値,帯磁率および元素濃度の値がほぼ一定,あるいは上位へ漸減または漸増を示す無構造の厚い泥層が3層認められた(下位より厚さ22 cm, 43 cm, 46 cm).これらの層の基底部にはいずれも極細粒砂層が存在する.極細粒砂層と無構造の厚い泥層を一組とした場合,上位および下位の泥層の浮遊性有孔虫の放射性炭素年代を調べた結果,大きな違いはなかった.すなわちイベント的な短時間の堆積を示しており,無構造の厚い泥層はタービダイト泥に相当すると考えられる.この無構造の厚い泥層には浮遊性有孔虫がほとんど含まれておらず年代測定が行えていないが,全有機炭素の放射性炭素年代を求めたところ,上下の層と大きく異ならない年代となった.採泥点の海盆は高まりによって孤立しており周囲の斜面からの堆積物供給しか受けない地点である.無構造の厚い泥層がタービダイト泥とすると,供給源は海底の表層部で,古い地層を巻き込むような地すべり起源ではないと解釈できる.無構造の厚い泥層に浮遊性有孔虫がほとんど含まれていないのは,高懸濁の泥(Fluid mud,例えば西田・伊藤,2009, 地質雑)の中で有孔虫殻が沈降して底部に濃集したためと考えられる.X線CT画像には縦方向に長い巣穴化石が多数認められることから,イベント的な厚い泥の堆積による底生生物の脱出孔の可能性がある.
この地点周辺では2004年紀伊半島南東沖地震の際に無人探査機による海底調査を行っており,海水の広範囲の懸濁に加え,海底付近には高懸濁層の存在を確認している(Ashi et al., 2014, EPS).また,表層試料の分析により厚さ約17 cmの泥がこの地震時に堆積したことを報告している(Okutsu et al., 2019, GSL Special Pub.).本研究は,海底表層物質の同様の地震による再移動が過去にも繰り返し発生していたことを示した.表層堆積物の移動・堆積は homogenitesとして日本海溝(McHugh et al., 2020, Marine Geology)などからも報告されている.イベント層が表層堆積物の再移動のみによるか,地すべりにより古い地層を巻き込むかは,地震の加速度やイベント発生前の堆積場の状況の指標となりうる可能性がある.
本研究は令和5年度原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施した.X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガー分析は高知大学海洋コア国際研究所の共同利用(17A048, 17B048, 24A012)により行った.
Comment
To browse or post comments, you must log in.Log in