Presentation Information
[T13-O-20]Surface environments and their changes recorded in speleothems of Minami-Daito-jima, Okinawa Prefecture, Japan
*Hiroki Matsuda1, Shoya Sato2 (1. Faculty of Advanced Science and Technology, Kumamoto University, 2. Course for Earth Sciences, Faculty of Science, Kumamoto University)
Keywords:
speleothem,Minami-Daito-jima,carbon and oxygen stable isotope ratio,surface environment,dolostone
これまで鍾乳石の種々の分析により,気候変動や植生変遷などの陸域環境に関する様々な研究が行われてきた(例えば,狩野,2012;Sone et al.,2015など).琉球列島東方約340 kmに位置する南大東島は,中新世以降のサンゴ礁性堆積物からなる太洋島であり,苦灰岩と石灰岩が広く分布する.南大東島にも多数の鍾乳洞があり,これらの鍾乳石についても,成長速度や酸素・炭素安定同位体比の分析に基づき,1900年の入植・開島以降の地表環境の変遷に関する研究が行われてきた(今村洞-甘蔗園下-・山下洞-亜熱帯森林下-;例えば,松田ほか,2013a).しかしこれまでの研究は,島東部中央低地の苦灰岩分布域における鍾乳石の分析・解析が主であり,島西部環状台地からその外側の石灰岩分布域における鍾乳石の分析・解析は行われていない.そこで本研究では,石灰岩分布域に位置し,植生が異なる金毘羅洞(植生:海岸植生;西港近傍)と星野洞(植生:甘蔗園と亜熱帯森林の境界部;観光洞域外)において採取した鍾乳石を用いて,鍾乳洞が位置する地点の母岩の岩質,ならびに植生変遷がどのように鍾乳石に記録されているかを明らかにすることを目的とした.研究では,採取した鍾乳石を半割し,断面をスケッチした後,薄片を作成し顕微蛍光法により年縞測定を,さらに酸素・炭素安定同位体比測定を実施した.また過去に実施した島東部中央低地の鍾乳洞から得られた鍾乳石のデータと比較・検討した.
分析の結果,金毘羅洞KP-1試料では年縞は平均約100μmであるのに対し,星野洞HN-2試料では平均約90μmであった.また酸素・炭素安定同位体比は,KP-1試料では平均δ13CPDB = -6.20‰,δ18OPDB = -4.41‰,HN-2試料では平均δ13CPDB = -9.68‰,δ18OPDB = -5.15‰であった.KP-1試料では,表面から約2mm,4mm,8mm,10mm,ならびに14mm付近においてδ13CPDB値に大きな変化が見られたが,HN-2試料のδ13CPDB値には大きな変化は認められない.またδ18OPDBの値は,どちらも比較的安定している.
金毘羅洞KP-1試料の表面から約14mmまでのδ13CPDB値変化について,年縞を基にその要因について検討した結果,これらの変化は1900年以降の西港周辺の開発や人間活動に関連している可能性が強く示唆された.金毘羅洞周辺では,1910年代後半に砂糖運搬専用軌道が敷設され1980年代前半まで製品や資機材運搬に利用された.その後,専用軌道は撤去されたものの,1990年代後半にはキャンプ場や公園に利用されるようになったことから,これらが鍾乳石のδ13CPDB値に大きな影響を与えたと推定される.このような地表の利用形態の変化に伴う鍾乳石のδ13CPDB値の変化は,開墾により亜熱帯森林から甘蔗園へと植生が大きく変わった島東部中央低地下の今村洞の鍾乳石でも顕著である.一方,星野洞HN-2試料の地表植生は,島東部中央低地下の山下洞と同様に亜熱帯森林から大きく変化していないと推定される.また両洞の鍾乳石のδ18OPDB値には大きな違いはなく比較的安定しているが,苦灰岩分布域(中央低地)の今村洞・山下洞の鍾乳石と比較すると,δ18OPDB値は全体に3〜4‰程度重い.南大東島の苦灰岩と石灰岩のδ18OPDB値は苦灰岩の方が7‰程度重く,鍾乳石と逆である.一方,鍾乳洞内の滴下水のδ18OPDB値は,風送海塩と防風林の影響により,島の環状台地から海岸下に位置する鍾乳洞の滴下水の方が,中央低地下に位置する鍾乳洞の滴下水より塩分は高い(松田ほか,2013b)このことから鍾乳石のδ18OPDB値は,母岩の岩質や植生よりも鍾乳洞の島内位置による滴下水の塩分の違いが影響を与えている可能性が大きい.
講演では,先行研究データを含め,南大東島の鍾乳石に記録された地表環境とその変遷について議論する.
引用文献
狩野,2012, 地質学雑誌, 118, 157-171.
松田ほか,2013a,月刊地球,35,650-658.
松田ほか,2013b,月刊地球,35,659-665.
Sone et al.,2015, Island Arc, 24, 342-358.
分析の結果,金毘羅洞KP-1試料では年縞は平均約100μmであるのに対し,星野洞HN-2試料では平均約90μmであった.また酸素・炭素安定同位体比は,KP-1試料では平均δ13CPDB = -6.20‰,δ18OPDB = -4.41‰,HN-2試料では平均δ13CPDB = -9.68‰,δ18OPDB = -5.15‰であった.KP-1試料では,表面から約2mm,4mm,8mm,10mm,ならびに14mm付近においてδ13CPDB値に大きな変化が見られたが,HN-2試料のδ13CPDB値には大きな変化は認められない.またδ18OPDBの値は,どちらも比較的安定している.
金毘羅洞KP-1試料の表面から約14mmまでのδ13CPDB値変化について,年縞を基にその要因について検討した結果,これらの変化は1900年以降の西港周辺の開発や人間活動に関連している可能性が強く示唆された.金毘羅洞周辺では,1910年代後半に砂糖運搬専用軌道が敷設され1980年代前半まで製品や資機材運搬に利用された.その後,専用軌道は撤去されたものの,1990年代後半にはキャンプ場や公園に利用されるようになったことから,これらが鍾乳石のδ13CPDB値に大きな影響を与えたと推定される.このような地表の利用形態の変化に伴う鍾乳石のδ13CPDB値の変化は,開墾により亜熱帯森林から甘蔗園へと植生が大きく変わった島東部中央低地下の今村洞の鍾乳石でも顕著である.一方,星野洞HN-2試料の地表植生は,島東部中央低地下の山下洞と同様に亜熱帯森林から大きく変化していないと推定される.また両洞の鍾乳石のδ18OPDB値には大きな違いはなく比較的安定しているが,苦灰岩分布域(中央低地)の今村洞・山下洞の鍾乳石と比較すると,δ18OPDB値は全体に3〜4‰程度重い.南大東島の苦灰岩と石灰岩のδ18OPDB値は苦灰岩の方が7‰程度重く,鍾乳石と逆である.一方,鍾乳洞内の滴下水のδ18OPDB値は,風送海塩と防風林の影響により,島の環状台地から海岸下に位置する鍾乳洞の滴下水の方が,中央低地下に位置する鍾乳洞の滴下水より塩分は高い(松田ほか,2013b)このことから鍾乳石のδ18OPDB値は,母岩の岩質や植生よりも鍾乳洞の島内位置による滴下水の塩分の違いが影響を与えている可能性が大きい.
講演では,先行研究データを含め,南大東島の鍾乳石に記録された地表環境とその変遷について議論する.
引用文献
狩野,2012, 地質学雑誌, 118, 157-171.
松田ほか,2013a,月刊地球,35,650-658.
松田ほか,2013b,月刊地球,35,659-665.
Sone et al.,2015, Island Arc, 24, 342-358.
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